翻訳|referendum
憲法の改正,法律の制定,重要案件の議決などについて,立法機関の議決をもって最終決定とせず,有権者の投票によって最終決定とする国民投票ないし住民投票の制度であり,イニシアティブ(国民発案)とともに直接立法制度の一形態,直接民主制の一形態である。レファレンダムと類似のことばとして,プレビシットplebisciteがあり,両者の異同が論じられる。歴史上,プレビシットの名で行われた投票には次のようなものがある。すなわち,ナポレオンが1799年のクーデタによって権力を掌握し,新憲法を起草し,みずから第一統領になったときに実施した投票,また1802年に終身統領になったときのもの,さらに1804年に皇帝となったときのものがある。ついで,ヒトラーが1933年に国際連盟からの脱退について行ったもの,1934年に彼が宰相兼大統領となったときのもの,1938年に独墺合併について行ったものなどもプレビシットの例とされる。そして,第1次大戦後に民族自決のために実施された数々の投票もプレビシットと呼ばれた。一般には,憲法ないしは法律上の根拠規定にもとづいて継続的・恒常的な制度の運用として実施される国民投票をレファレンダムといい,一回かぎりの重要案件について超法規的に実施される人民投票をプレビシットというが,両者を厳密に区別することはむずかしい。
憲法改正についてレファレンダムを採用している国は相当数にのぼる。だが,憲法改正にかぎらず,一般の法律等の制定についてまでレファレンダムを採用している国は決して多くない。法律の制定まで含めたレファレンダム制度は,まずスイスの連邦および州のレベルで発達し,ついで1910年代にアメリカ合衆国の州および自治体のレベルに普及した。その後,ドイツがワイマール共和国時代の連邦および州のレベルで導入したため,戦間期にはヨーロッパ諸国の多くにも波及した。だが,第2次大戦後になると,これらの国々がこの制度を廃止したため,現在では,再びもともとのスイスおよびアメリカ合衆国でのみ広く活用されているといっても過言ではない。
レファレンダム制度では,立法機関が憲法改正案ないし法律案を可決・成立させたのち,その公布施行までに一定の期間をおき,この間に国民投票が行われたときには,その表決をもって最終決定とする方法がとられるが,誰が国民投票に付すことを発議するかという点で,三つの類型に分けられる。第1の型は,スイスの約半数の州で採用されているもので,議会が可決した法案はこれをすべて自動的に,次の選挙で国民投票に付す制度であり,強制的レファレンダムcompulsory referendumと呼ばれる。第2の型は,議会が可決した法案について国民が有権者の一定数ないし一定率の署名をもって請求したときには,これを国民投票に付す制度であり,任意的レファレンダムoptional referendumと呼ばれる。スイスの残りの約半数の州およびアメリカ合衆国で採用されているのはこの型である。そして第3の型は,議会が法案を可決する以前または以後に,議会みずからが,あるいは大統領等が発議して,これを国民投票に付す制度である。先の第2の型のレファレンダム制度が採用されているところでは,この第3の型も認められていることが多い。
日本の現行法制において採用されているレファレンダムは,憲法改正の国民投票と,憲法95条にもとづく特別法に関する住民投票だけである。これは対象を特定法案に限定した強制的レファレンダムである。
→直接民主制
執筆者:西尾 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国民投票あるいは住民投票のことで,重要な政治的決定を国や地方の有権者一般の投票に委ねることをいう。プレビシットも同義であるが,これは特定地域の政治的帰属を決める住民投票をさしていうことが多い。アメリカでは,レファレンダムは議案の採否の決定を有権者の直接投票に委ねる制度として,20世紀初頭以来,州や地方自治体で広く採用されている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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