野洲川東岸にある。標高四三二メートル。
当山付近は悠紀斎田に度々指定されており、「みかみの山」は大嘗会の風俗歌や屏風歌にとりあげられた歌枕であった。「拾遺集」巻第一〇神楽歌には清原元輔の「よろづ世をみかみの山のひびくにはやす河の水すみぞあひにける」、大中臣能宣の「ちはやぶるみ神の山のさか木ばはさかえぞまさるすゑの世までに」などを載せる。「千載集」巻第一〇賀歌には「今上御時、元暦元年大嘗会悠紀方風俗歌三神山をよめる」として、藤原季経の「ときはなるみかみの山のすぎむらややほ万代のしるしなるらん」の一首がある。また「後鳥羽院御集」詠五百首和歌(冬五十首)には「あふみのやにほてる月ははれにけりみかみのたけは猶しぐれつつ」、「西行法師家集」には「しのはらやみかみのたけを見渡せば一夜の程に雪は降りけり」と詠まれる。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
滋賀県中南部、野洲市(やすし)にある山。琵琶(びわ)湖陥没時の残丘で標高432メートル。美しい山容から「近江富士(おうみふじ)」の名で親しまれ、歌枕(うたまくら)としても詠まれてきた。頂上は雄山と雌山に分かれ、古くから神体山として信仰の対象とされてきた。現在も山頂部に磐座(いわくら)がある。『延喜式(えんぎしき)』所収の御上(みかみ)神社もかつては山頂にあったが、現在では山麓(さんろく)に祀(まつ)られている。この地は安国造(やすのくにのみやつこ)の本拠地であると伝えられ、山麓一帯の遺跡などから強大な政治的権力が存在したことは確実であるといってよい。藤原秀郷(ひでさと)(俵藤太(たわらとうた))の百足(むかで)退治の伝説からムカデ山ともよばれる。
[高橋誠一]
滋賀県南部,野洲(やす)市にある山。標高432m。古生層の岩石からなる円錐形の孤立丘で,〈近江富士〉とも呼ばれ,俵藤太(たわらとうだ)(藤原秀郷(ひでさと))のムカデ退治の伝説(《俵藤太物語》)で知られている。山頂は雄山と雌山に分かれ,古くから信仰の対象となった神体山で,巨大な磐座(いわくら)がある。山麓の御上(みかみ)神社は《延喜式》の式内社で,鍛冶・農業の祖神の天之御影命をまつっており,国宝の本殿をはじめ拝殿,楼門など鎌倉時代の建築が残っている。三上田上信楽(みかみたなかみしがらき)県立自然公園に属し,山頂からの湖南地方の眺望がすばらしい。西麓に国道8号線が通じ,JR東海道本線の野洲駅,名神高速道路の栗東(りつとう)インターチェンジにも近接していて交通の便がよいので,近年,山麓一帯では住宅団地が急増している。
執筆者:井戸 庄三
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