千葉県上総地方で古くより行われていた水井戸を掘る掘削法。地表装置としては木製櫓(やぐら)とヒネ車がある。櫓の上部にはモウソウチク数本を束ね、その根本を固定し、その末端が坑口に臨むようにする。これを弓竹という。地層を掘削する器具を掘鉄管といい、パイプの先端に岩石を砕く刃を接着し、その上に上方に開く弁が取り付けてある。掘鉄管はヒネ竹で地表より吊(つ)り下げられる。ヒネ竹は竹を裂き、幅3センチメートルぐらいに削ったものを鉄の輪と楔(くさび)で長く継ぎ合わせたものである。ヒネ竹はモウソウチクを束ねた弓竹の末端と掘綱で結ばれている。掘綱を人力で引き下げれば、掘鉄管は地層を破砕し、力を緩めれば掘鉄管は跳ね上がる。掘鉄管のパイプ中に岩石の破片がいっぱいになれば掘鉄管を引き上げる。引き上げにはヒネ車を用いる。ヒネ車に人が数名入り、車を回してヒネ竹を巻き付ける。井戸に岩石破片が残っているときはスイコー(吸子)という、パイプの下端に弁をつけたものを降ろし、岩石破片を回収する。
1893年(明治26)に新潟県新津(にいつ)油田の石油井掘削に用いられ、以後鉄管の昇降装置などに種々改良がなされた。1935年(昭和10)秋田県八橋(やばせ)油田で上総掘りで掘った坑井が深度203メートルで油層にあたり、大噴油をおこし、日本最大の油田である八橋油田発見の端緒となった。現在は上総掘りはほとんど使用されていない。
[田中正三]
古くから千葉県の上総地方において水井戸を掘るために用いられていた方法。1892年以来,新潟県および秋田県の浅い石油井の掘削に用いられ,昭和20年代でもまれに用いられた。最も簡単な衝撃式装置であり,人力のみにより動かすことができる(図)。竹を割って作った〈へね竹〉の先に掘鉄管とビット(〈かぶら〉ともいう。岩石を砕く道具)を付けて坑井に降下する。へね竹の上端には掘綱(麻綱)が付けられている。掘綱はモウソウチク数本をたばねた弓竹に結ばれ,他端は垂れ下がっている。弓竹の一端は固定され,一端は坑井の真上にある。掘綱を3人ないし8人の力で急激に引き下げるとビットが坑底を衝撃する。力を緩めると弓竹の弾力で跳ね上がる。これの繰返しで掘り進む。砕かれた岩石の破片は掘鉄管内に水といっしょに入ってくる。掘り進むにつれて,へね竹を1本ずつ継ぎ足していく。ビットを引き揚げるときは,へね竹をへね車に巻き取る。へね車は中に数人入り,桟を踏んで回転する。坑径は初期のころは約10cmであったが,綱掘りの技術を応用して改良された動力上総掘り(人力の代りに各種原動機を用いる改良型)では約30cmのものも掘られた。掘削深度は約300mである。
執筆者:田中 彰一
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