乱声(読み)らんじょう

精選版 日本国語大辞典 「乱声」の意味・読み・例文・類語

らん‐じょう ‥ジャウ【乱声】

〘名〙
雅楽舞楽で用いられる笛の調べの名称。新楽乱声(振鉾の時に奏する)、古楽乱声迦陵頻・抜頭などの出に奏する)、安摩乱声(安摩・二舞および陵王の入りなどに奏する)など。古くは、行幸の出御・入御、相撲・競馬(くらべうま)などの勝負、集会、その他のおりに奏された。らんせい。らんぞう。
内裏式(833)十七日観射式「持鉦者在射人前乱声而進次執幡四人相分在左右偃幡指行前」
② (━する) 鉦や太鼓を鳴らして鬨(とき)の声をあげること。
扶桑略記(12C初)寛平五年九月五日「善友立楯令調弩、亦令乱声、時凶賊随亦乱声、即射戦、其箭如雨」
③ みだりがましく騒ぎたてること。
俳諧去来抄(1702‐04)修行「俳諧鉄炮となりとも、乱声となりとも一家の風を立てらるべき事也」

らん‐ぞう ‥ザウ【乱声】

※青表紙一本源氏(1001‐14頃)蛍「打毬楽(だぎうらく)落蹲(らくそむ)など遊びて、勝ち負けのらんさうども、ののしるも」

ら‐ぞう ‥ザウ【乱声】

〘名〙 (「らんぞう」の撥音「ん」の無表記) =らんじょう(乱声)
※宇津保(970‐999頃)祭の使「左右乱声して勝負に楽の舞ひす〈略〉右勝つ。らざうして舞ひす」

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デジタル大辞泉 「乱声」の意味・読み・例文・類語

らん‐じょう〔‐ジヤウ〕【乱声】

雅楽の笛の曲。舞人の登場のときなどに太鼓・鉦鼓しょうこと合奏する。新楽乱声・古楽乱声・小乱声高麗こま乱声・高麗小乱声などがある。
かね・太鼓を打ち鳴らしてときの声をあげること。
「つねに太鼓をうって―をす」〈平家・九〉

らん‐ぞう〔‐ザウ〕【乱声】

らんじょう(乱声)

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改訂新版 世界大百科事典 「乱声」の意味・わかりやすい解説

乱声 (らんじょう)

雅楽,とくに舞楽の前奏曲の一種。乱詞(らんじ)ともいう。独立した楽曲ではなく,舞人が登場する前の導入曲,あるいは登場の音楽として用いられる。いずれの場合も,竜笛(りゆうてき)あるいは高麗(こま)笛が奏する無拍節的な曲で,太鼓と鉦鼓(しようこ)が大まかに打たれる。音頭(おんど)がはじめに笛を独奏し,付所(つけどころ)から助管(じよかん)という助奏者が最初と同じ旋律を追いかけて吹く退吹(おめりぶき)の奏法をする。同じ旋律が重なり合っておもしろく,各自奏者たちが勝手に吹いているように聞こえるが,奏法には一定の規定がある。現在は7種類の乱声が用いられている。唐楽では左方(さほう)の《振鉾(えんぶ)》の登場音楽である〈新楽乱声(しんがくらんじよう)〉,《迦陵頻(かりようびん)》《胡飲酒(こんじゆ)》《蘇莫者(そまくしや)》《抜頭(ばとう)》の登場音楽である〈古楽乱声(こがくらんじよう)〉(〈林邑乱声(りんゆうらんじよう)〉とも),《振鉾》《還城楽(げんじようらく)》《陵王(りようおう)》の導入曲である〈小乱声(こらんじよう)〉,《安摩(あま)》《二ノ舞》の登場音楽,および当曲,《還城楽》《陵王》の退場音楽である〈安摩乱声〉,《還城楽》《陵王》の登場音楽である〈陵王乱声〉の5種類,高麗楽では右方(うほう)の《振鉾》《貴徳(きとく)》《胡蝶(こちよう)》《新靺鞨(しんまか)》《八仙(はつせん)》《林歌(りんが)》の登場音楽である〈高麗乱声〉と,〈高麗乱声〉の前に舞の導入曲として奏される〈高麗小乱声〉の2種類。なお,〈小乱声〉と〈高麗小乱声〉は笛の独奏に太鼓と鉦鼓が加わる短い曲で,そのあとに乱声が続くのが普通である(例外として《納曾利(なそり)》は〈高麗小乱声〉のあと,すぐに当曲が奏される)。また退吹のほか,拍節的なリズムでカノン風に奏する追吹(おいぶき)や,乱声の途中で曲を終わる乱声止(らんじようどめ)という乱声に特有の奏法がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乱声」の意味・わかりやすい解説

乱声
らんじょう

雅楽の曲名。竜笛 (りゅうてき) あるいは高麗笛 (こまぶえ) を主体として,それに打楽器 (太鼓,鉦鼓) が加わって奏する前奏曲および後奏曲の類。これに篳篥 (ひちりき) や笙が加わって奏する「調子」に対する。舞楽の特定の曲 (左方楽では『迦陵頻』『胡飲酒』『蘇莫者』『抜頭』など。右方楽では『貴徳』『胡蝶』『八仙』『林歌』『新靺鞨』など) に使用される。古楽乱声 (林邑乱声ともいう) ,新楽乱声,高麗乱声があるが,左方の特定曲 (『陵王』『還城楽』『安摩』『二の舞』など) の「乱序」に奏される竜笛の曲も「乱声」 (陵王乱声,安摩乱声など) という。非拍節的リズムに基づいており,しかも数人の笛奏者によって「退吹 (おめりぶき) 」すなわちカノン風に重奏されるので,偶発的に複雑なリズムや音響が生れる。まさに「乱声」の名称にふさわしい音楽である。なおこのほか新楽乱声などの前に笛によって独奏される小乱声と,高麗乱声の前に独奏される高麗小乱声がある。なお,「振鉾 (えんぶ) 」では,その第1節には小乱声と新楽乱声,第2節には高麗小乱声と高麗乱声,第3節には同時に新楽乱声,高麗乱声がそれぞれ用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内の乱声の言及

【古楽】より

…古楽はトレモロ奏法を用いないので,様式上の区別がつく。また乱声(らんじよう)という様式の曲があり,これに新楽乱声と古楽乱声がある。かつては新楽乱声と古楽乱声を対比的に用いた例もあるが,現在では新楽乱声は《振鉾(えんぷ)》という儀式開始の舞楽に用いられ,古楽乱声は林邑楽系の舞楽の登場曲に使われている。…

【舞楽】より

…舞楽では中心となる舞曲(当曲(とうきよく)という)のほかに必ず舞人の登・退場のための音楽を必要とし,このほか曲によっては序奏や間奏曲,あるいは当曲自体が数楽章に分かれるものなどいろいろあるが,これらの楽章と,舞人の登・退場,演舞の関係が唐楽と高麗楽とでは異なる。唐楽では当曲の前後に,これとは別個の調子の品玄(ぼんげん)・入調(にゆうぢよう),各種の乱声(らんじよう),乱序(らんじよ),道行(みちゆき)などの登・退場楽をもつものがほとんどであるのに対し,高麗楽では《高麗乱声(こまらんじよう)》という登場楽をもつものが数曲ある以外は,ほとんどの曲が当曲の間に登場,演舞,退場するという簡素化された形をもつ。その代り,舞人が楽屋にいる間に奏される序奏曲に関しては,高麗楽ではほとんどの曲が各種の音取(ねとり),小乱声(こらんじよう),納序(のうじよ),古弾(こたん)などの序奏をもつのに対し,唐楽では序奏をもつものは数例にすぎない。…

※「乱声」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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