華厳(けごん)宗で仏教を五教説と十宗説に分類批判した教相判釈(きょうそうはんじゃく)(諸経典を説法の形式、方法、内容などにより分類、整理して体系づけること)。中国華厳宗第三祖の法蔵(ほうぞう)(643―712)によって大成された。五教は、いっさいの仏教を教説の浅深によって5段階に分けたもの。すなわち、以下の五教説である。
(1)小乗教 いまだ正しい空(くう)の理を悟らない劣った教えで、『阿含経(あごんきょう)』および阿毘達磨(あびだつま)の哲学。
(2)大乗始教 初めて大乗に入った段階で、いまだ真如(しんにょ)と万法が融合するに至らない教え。唯識(ゆいしき)説(相始教)と中観(ちゅうがん)説(空始教)を含む。
(3)大乗終教 大乗の終極たる優れた教えで、真如と万法の融合を説く。『大乗起信論(だいじょうきしんろん)』などの如来蔵(にょらいぞう)説にあたる。
(4)大乗頓教(とんぎょう) 言語差別を超越し、一挙に真理を悟る教え。もと『維摩経(ゆいまぎょう)』などに相当するが、華厳宗第四祖の澄観(ちょうかん)(738―839)に至って、禅宗をあてるようになった。
(5)大乗円教 いっさいの事象が互いに融合して障害となっているものがないという、円融(えんにゅう)自在の事々無礙(じじむげ)の教えで、華厳の教えを表す。
十宗は、法相(ほっそう)宗の基(窺基(きき)。632―682)の八宗説を発展させたもので、五教をさらにそれぞれの中心となる説によって10に分ける。
(1)我法倶有宗(がほうくうしゅう)(犢子部(とくしぶ)にあたる)
(2)法有我無宗(ほううがむしゅう)(有部(うぶ))
(3)法無去来宗(ほうむこらいしゅう)(大衆部(だいしゅぶ))
(4)理通仮実宗(りつうけじつしゅう)(説仮部(せっけぶ))
(5)俗妄真実宗(ぞくもうしんじつしゅう)(説出世部(せつしゅっせぶ))
(6)諸法但名宗(しょほうたんみょうしゅう)(一説部(いっせつぶ))
(7)一切皆空宗(いっさいかいくうしゅう)
(8)真実不空宗(しんじつふくうしゅう)
(9)相想倶絶宗(そうそうくぜつしゅう)
(10)円明具徳宗(えんみょうぐとくしゅう)
(1)~(6)は小乗教に、(7)は大乗始教に、(8)は大乗終教に、(9)は大乗頓教に、(10)は大乗円教に相当する。
[末木文美士]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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