性質が異なる二つの種類の介入権が商法上認められている。
〔1〕競業避止義務を負う支配人・代理商が、その義務に違反して自己または第三者のために行った取引行為につき、営業主、本人、会社等が自己のためになしたものとみなして、当該行為によって支配人・代理商または第三者が得た利益の額を、営業主、本人、会社に生じた損害の額と推定することにより、取引の経済的効果を図った権利。この権利を認めたのは、とくに、得べかりし利益の喪失による損害の証明が困難であるので、それを避けるためである。支配人(商法23条2項、会社法12条2項)、代理商(商法28条2項、会社法17条2項)の競業避止義務違反について認められている。
〔2〕取次ぎの委託を受けた問屋(といや)または運送取扱人が、委託事務の処理方法の一つとして、自ら取引の相手方となる権利(商法555条1項、565条1項)。もともと問屋は、委託者のために物品の販売または買入れの取次ぎをなすものであるから、問屋が委託者に対し自ら売り主や買い主として利害が対立する立場にたつことは理論上許されないはずであるが、売買の委託を受けた物品に取引所の相場がある場合には、委託者の利益を害するおそれがないし、委託者にとっても委託の目的が迅速に達成されるばかりでなく、無用な手続や費用を省く利益もある。取引所の相場があることを要件としているのは、問屋が依拠すべき価格を明確にし、公平な介入権の行使ができるようにするためである。なお、証券取引所の会員や商品取引所の仲買人には、委託者保護のために、介入権の行使(のみ行為)が禁止されている。運送取扱人も反対の特約がない限り、介入権を行使して自ら運送することができる。また運送取扱人が自ら貨物引換証を作成したときも、介入権を行使したものとみなされる。この場合、運送賃や運送手段が定型化しているので、介入権を認めてもなんら弊害がないために、運送取扱人についても介入権を認めた。介入権の行使により問屋や運送取扱人は、委託者に対し、売り主、買い主または運送人と同一の権利義務を有するが、それは委託事務の処理方法の一つにすぎないから、当然に問屋または運送取扱人としての報酬・費用の請求権を有する。
[戸田修三]
商法上2種の介入権がある。(1)委託を受けた問屋,運送取扱人の委託実行の一方法で,自らが委託された取引の相手方となる権利。介入の結果委託者に対して受託者の地位と委託取引の相手方の地位とをあわせもつ(商法555,565条)。問屋(介入は取引所の相場がある物品の場合に限る),運送取扱人(自ら貨物引換証を作成したときは介入とみなされる)にとって簡易な委託実行であるうえ,委託者にとって委託した取引の相手方が誰であるかは重要でなく,委託した売買,運送の経済的成果が得られればよいことが多いので認められている。しかし問屋としての証券会社,商品取引員は一般的に介入が禁止されている(証券取引法47,129条,商品取引所法93条)。(2)支配人,代理商,無限責任社員(合名会社・合資会社),取締役(株式会社・有限会社)が,本人たる商人または会社に対する競業避止義務に反して第三者と取引した場合,本人等が一方的意思表示によりこの取引を本人等のためにしたものとみなす権利をいう(商法41条2項,48条2項,74条2項,147・155条,264条3項,有限会社法29条3項)。奪取権ともいう。行使の要件に若干の差はあるが,支配人等は競業取引で取得した債権,物品を本人等に譲渡する義務を負う。他方,本人等は支配人等の債務を弁済するなど支出した費用の塡補を要する。損害賠償請求権のほかに介入権を認めたのは,損害の証明の困難を除去し,本人等の顧客維持のためである。
執筆者:大塚 龍児
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