企業団地(読み)きぎょうだんち

改訂新版 世界大百科事典 「企業団地」の意味・わかりやすい解説

企業団地 (きぎょうだんち)

工場や商店などの企業群のために,総合的な計画に基づいて土地を造成区画割りし,用地開発を行って企業群を収容した団地をいう。自動車工場とその関連工場のような大規模な工業団地,中小企業の店舗・工場を集団化あるいは合理化するための中小企業団地,卸売市場・問屋街・倉庫・トラックターミナルなどを集める商業団地流通団地)などがあるが,なかでも工業団地が重要である。企業団地造成の際には,道路,港湾電力,ガス,上下水道,汚水処理など公害防止のための施設が事前に完備され,敷地利用や建築上の規制,排水物の量や内容についてもきびしく規定されている場合がほとんどである。

 工業団地は,産業革命による近代工業の発展に伴い,都市環境との関係から先進工業国で生まれたものである。まず,アメリカのシカゴにおける再開発工業地区やイギリスのマンチェスター郊外のトラフォード工業団地など,19世紀末から20世紀の初頭に始められ,1930年代以降さかんに建設されるようになった。イギリスでは,34年の特別地域法Special Areas Actsの制定に伴い工業用地の開発や工業団地,中小工業団地の造成が政府の資金援助によりさかんに行われた。60年代以降は,大ロンドン計画や大都市整備計画の一環として,その外縁部に職住一致のニュータウンの建設という形で工業団地が開発され,造船業繊維工業を中心とした不況地域では,新しい工業を導入するための工業団地が公的機関によって建設されている。また,アメリカ合衆国では新しい工業の発展が第2次大戦中から技術革新を伴いながら進行し,これに呼応しながら鉄道会社,不動産会社などの民間資本や民間団体,地方公共団体によって新しい形の工業団地建設がさかんに進められた。道路や情報手段の整備・発展,自動車通勤の急増貨物輸送の大型化,労働環境の改善,地域社会との融和といった工業をめぐる諸条件の変化に対応しながら,古い形の工業団地を改善しつつインダストリアル・パーク=工場公園と呼ばれ,15~100haにも及ぶ,緑化など環境整備の行き届いた新しい形の工業団地が各地に造られており,その数は全国で1000をこえている。

 日本でも,埋立てなどによる工業用地造成事業はすでに戦前から行われてきたが,本格的な工業団地の造成は第2次大戦後の1958年に首都圏整備法に基づき,相模原市,平塚市,八王子市などで団地が造られたことに始まる。工業団地は一般に内陸部に多いが,60年完成の川崎市千鳥町の石油化学工業地区など臨海部での団地形成も進んだ。臨海部に立地する業種は港湾など特定の施設をもつことが基本的な条件であり,鉄鋼,石油精製,石油化学などの装置産業か,製粉など輸入原料依存型産業に限られるが,内陸部では各種企業が別個に進出,立地する傾向がある。一方,60年代に入ると,中小企業においても高度化事業の要として企業が集団的に立地移転し団地を形成する,中小企業団地事業が進行しているほか,公害防止を目的とした工業団地も造成されている。中小企業団地としては,木工,機械,玩具,洋食器など同業種企業の団地が多い。栃木県壬生町の輸出玩具団地,茨城県古河市の旧総和町の配電盤団地,浜松市の木工団地,仙台市の印刷工業団地などはそのおもなものである。また,地方の地場産業でも福島県会津若松市の漆器,福岡県大川市の家具,新潟県燕市の金属洋食器など団地化により高度化が進められている。これに対し,異業種では,機械工業とその関連企業が相互に結合しながら団地を形成している場合が多い。下請企業団地としては,豊田市,広島市,倉敷市(水島)の自動車関連,長崎市,尾道市の旧因島市の造船関連などがあり,下請工場が親企業に近い地点に集団立地している。

 工業団地は,日本では公団や地方公共団体,開発公社などによって造成されている。工業団地は企業にとり,用地取得,生産系施設,共同利用施設,道路,住宅などの社会基盤が事前に整備されているなどのメリットがあり,地方公共団体にとっては公害防止,過密解消など環境整備を工場の計画的な移転と再配置によってはかることができるなどのメリットがある。

 商業団地の造成も各地で進行している。これは,高速道路など道路網が整備され,貨物輸送の主役が自動車に変わったことなどにより生まれたものである。従来は都市の中心部にあった卸売業が交通の便利な郊外に集団移転し,団地を形成しており,施設・設備とも近代化し,トラック・ターミナルをも含めた団地が多い。地方中心都市の大部分で卸売中心の商業団地がみられ,地域の流通拠点として大きな効果をあげている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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