会社整理(読み)かいしゃせいり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「会社整理」の意味・わかりやすい解説

会社整理
かいしゃせいり

破綻(はたん)に瀕(ひん)した株式会社が破産に至ることを避け、商法の規定に従い、裁判所の監督のもとに行われる会社の再建を目的とした手続。1938年(昭和13)の商法改正により設けられ、2005年(平成17)に廃止された制度である。

 旧商法では以下のように規定されていた。裁判所は、会社が支払不能または債務超過に陥るおそれがあると認められるか、または陥っている疑いがある場合に、取締役監査役少数株主、もしくは一定の要件を備えた債権者の申立てにより、または会社の業務を監督する官庁通告に基づき、職権をもって会社整理の開始を命じることができる。整理開始命令があると、その登記がなされ、会社に対する破産の申立てや会社財産に対する強制執行等が許されなくなり、着手済みのそれらの手続は中止され、さらに中止していた手続は整理開始命令の確定によって失効する。開始命令があると、裁判所は、会社財産の保全処分、検査役による検査、会社の業務財産に関して監督員による監督または管理人による管理などを命ずることができ、整理委員に整理計画案の立案とその実行を命ずることができる。整理の実行は取締役または管理人が行い、これにより整理が結了し、または整理の必要がなくなったときは、裁判所は整理終結の決定をして、会社は正常の状態に復帰する。

 このような会社整理は、債権者全員の同意がなければ強行できず、また、整理の見込みがないときは破産手続に移行することとされていた。この制度は債権者に対する強制力がないほか、減資合併等も商法(当時)の通常の手続規定に沿い株主総会等の決議等を経て行わなければならなかったため、会社再建策としての実効性に乏しかった。その後1952年(昭和27)に制定された会社更生法(昭和27年法律第172号。全面改正され、現行法は平成14年法律第154号)では、多数決原理に沿った更生計画の立案ができるようになり、また、更生計画に定めれば商法の通常の手続規定に沿わずに減資、合併等が可能となった。さらに1999年(平成11)には民事再生法(平成11年法律第225号)も制定され、多数決原理を採用した、利用しやすい再建型倒産処理手続が導入された。よって、再建型倒産処理制度としての会社整理の存在意義は失われたとされ、2005年の会社法制定(平成17年法律第86号)によって廃止された。

[戸田修三・福原紀彦・武田典浩]

『山口和男編『裁判実務大系21 会社訴訟・会社非訟・会社整理・特別清算』(1992・青林書院)』『高木新二郎著『会社整理』3訂版(1997・商事法務研究会)』『森綜合法律事務所編、金丸和弘著『減資・会社整理・清算・特別清算』(2001・中央経済社)』『伊藤眞著『破産法・民事再生法』第2版(2009・有斐閣)』『山本和彦著『倒産処理法入門』第4版(2012・有斐閣)』

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改訂新版 世界大百科事典 「会社整理」の意味・わかりやすい解説

会社整理 (かいしゃせいり)

支払不能,債務超過,その他により破綻(はたん)にひんした株式会社の再建のため商法会社編の中に規定されている裁判所の監督のもとで行われる手続。1938年の商法改正によって導入された。倒産企業再建のための手続としてはほかに和議と会社更生があるが,会社整理の特徴は利害関係人の話合いによる整理(私的整理)を公権力の介入によって助成しようとする点にある。すなわち,和議や会社更生では再建案が債権者等利害関係人の法定多数決により一部の反対を押し切ってでも決定できるのに対して,会社整理における再建案である整理計画は全債権者の同意がなければ成立しない。したがって会社整理は,債権者数があまり多くなく,かつ会社経営者と債権者の間の信頼関係も失われていない比較的小規模な倒産の処理に適している。かつてはあまり利用されなかったが,経営者がそのまま居残れる利点があるので会社更生に代わるものとして改めて見直されている。

 会社整理手続は,会社が支払不能または債務超過(破産原因)に陥るおそれのあるとき,取締役や一定規模の株主ないし債権者の申立てにより開始される(商法381条)。管轄の裁判所は本店所在地の地方裁判所である(非訟事件手続法135条の24)。申立てがあると裁判所は,必要があれば公認会計士などを検査役に選任して調査させ,再建の見込みがあると認めれば整理開始の決定をする。これに先立って,強制執行等他の手続を中止させることができ,また監督員の選任を含む保全処分ができる(商法383,386条)。会社更生と異なり,担保権実行は手続開始前には中止できない。開始の決定により会社は整理会社となるが,管財人は任命されず取締役が従来どおり経営と財産の管理にあたる。しかし裁判所は,必要があるときは監督員を選任して裁判所の指定する一定の行為については監督員の同意を要するものとしたり(監督命令),あるいは管理人を選任して取締役に代わってすべての業務を行わせることもできる(管理命令。397,398条)。裁判所は必要に応じて,取締役の解任,取締役等の責任に基づく会社の損害賠償請求権の査定などの処分をすることができる(386条)。整理が開始されると債権者は個別の強制的な取立てはできなくなる(383条)。会社からする任意の弁済は有効であるが,他の債権者の了解のもとにしないと再建案への同意が得られなくなるおそれがある。倒産まぎわに取得した債権・債務による相殺については破産法の相殺禁止規定が適用される(403条)。担保を有する債権者は原則として影響を受けないが,裁判所は担保権実行手続を一定期間にかぎり中止させることができ(384条),これによって担保債権者をして再建のため協力させることができる。

 裁判所は会社に対し整理計画の立案を命じ,あるいは整理委員を選任して立案させる(386,391条)。整理案が裁判所に提出され,関係者全員の同意がとりつけられると裁判所は整理の実行を命じる(386条)。全員の同意は得られないが和議の成立に十分な賛成が得られる見込みのあるときは和議手続に移行して再建案の成立をはかる道が開かれている(401条)。
会社更生法 →倒産 →和議
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百科事典マイペディア 「会社整理」の意味・わかりやすい解説

会社整理【かいしゃせいり】

株式会社のみに認められる会社再建の手続(2005年改正前商法381条以下)。会社が支払不能・債務超過に陥るおそれがあるか,その疑いのある場合に,申立てに基づいて裁判所が開始決定をする。裁判所が会社財産の保全処分,業務監督命令・管理命令を出せるなど,裁判所の関与が認められる点で私的整理(内整理)と異なるが,原則として従来の取締役が経営を続け,また取締役が作成提出する再建案は債権者全員の同意がないと実行できない点で,民事再生法会社更生法の手続と異なる。2005年の会社法の立法により廃止された。
→関連項目特別清算

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世界大百科事典(旧版)内の会社整理の言及

【会社更生法】より

…倒産の処理に関する法制としては破産法が代表的であるが,破産清算を目的とするのに対し会社更生法は再建を目的とする。
[和議,会社整理との対比]
 従来,企業再建のための裁判上の手続としては和議法(1922公布)による和議手続および商法に規定される会社整理の手続(1938年改正で新設)があったが,株式会社企業の再建手続として十分でなかった。まず,和議は個人債務者を眼中に置いているうえ,破産原因がなければ開始されえない点で再建には手遅れである。…

【倒産】より

…具体的には,(1)決済資金の裏づけがないため不渡り(その手形,小切手を不渡手形という)を出した法人または個人企業が6ヵ月以内に2回目の不渡手形を出して銀行取引停止処分を受けることにより表面化することが多い。そのほか,(2)会社更生法の適用を申請したり破産申請をしたとき,(3)商法381条による会社整理,和議法による整理状態になったとき,(4)債権者会議を開催し内整理(これは法律によるものではない)を行ったとき,を倒産というが,倒産という言葉は法律用語でも学問用語でもない。ただし中小企業信用保険法には倒産という言葉が用いられている。…

※「会社整理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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