有職故実および古文書学上の用語。律令制において,官人が文書に署名するときなどに,その人の帯びている位階(以下,位という)・官職(以下,官という)・姓・名を,一定の規式にしたがって書くこと,また書いたもの。律令官位制度は1869年(明治2)まで1200年近く行われたので,叙任者にとっては必要な知識であったが,令には基本的な規定しかないため,早くから有職故実の一部として実例を集めて研究・帰納され,その成果は《拾芥(しゆうがい)抄》などに集成されており,江戸時代中期には壺井義知が《位署式私考》《位署難義私考》を著している。公式令の詔書式以下の署名が官・位・姓・名の順であることから,官位相当のときは官・位の順に書くことが判明し,また選叙令に1人で2官以上に任ぜられたときは,一を正官,他を兼官とせよ,官位不相当のとき,官が位より低いときは〈行〉,官のほうが高いときは〈守〉とせよ,と定めている。しかしこの令の規定のみでは,1人で5官・6官と兼任するとき,(1)どれを正官とするか,の問題が起こる。《令義解(りようのぎげ)》では,官位相当のものを正官とすると解しているが,(2)官位相当が2官以上あったときの順序,(3)不相当のみの場合の順序をそれぞれどうするかなど,実際の場面で判断に苦しむことが起こりうる。また時代の変遷に伴って令外官(りようげのかん)や摂政・関白・蔵人・検非違使などの〈宣旨(せんじ)の職〉といわれるものが置かれると,(4)それらとの関連も問題になってくる。《拾芥抄》以下の記述では,これらの問題点に関し,(2)は文官を先に,武官を後にする。(3)不相当の官のみの場合は,職員令記載の順序に書き,令外官は令内官の後に書く。摂政以下の〈宣旨の職〉は捧物(ささげもの)といってつねに最上に書く,としている。
なお文書の場合,公式様文書では〈署所〉といって,署名の場所が五位以上と六位以下で異なり,五位以上は行上,六位以下は行下に署する。行上・行下は1行の上半分・下半分をいう。また三位以上は名を署せず,姓(かばね)(朝臣(あそん),宿禰(すくね)など)を自署した。これを〈略名式〉といい,四位以下は名を自署する。年月日の下は〈日下(につか)〉といって,その文書の作成者(主典)の署所である。これは公家様文書でも踏襲されている。なお行上・行下や日下など一定の空間に多数の兼官のある者の位署書をするときは,破拆(分ち書き)といって,偏と旁(つくり)より成る字は,その間を空けて次の文字を入れることが行われた。これは位署書は,必ず1行に書かなければならなかったからである。
執筆者:今江 広道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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