改訂新版 世界大百科事典 「作型」の意味・わかりやすい解説
作型 (さくがた)
今日では,多くの野菜が周年的に栽培,出荷されるようになったが,これは,(1)温度や日長条件に対する反応が著しく異なる品種が育成され,(2)輸送機関の発達で気候条件の異なる遠隔地からの出荷が可能となり,(3)ハウスやトンネルなどの防寒施設が普及したためである。したがって,同一種類の周年栽培または出荷といっても,ある時期に出荷される野菜は,他の時期に出荷されるものとは品種,栽培地の気候条件,栽培管理の方法などが異なっており,それぞれ特有の栽培技術体系をもとに生産されたものである。こうした技術の体系を作型といい,野菜の場合,各作型が互いに補い合って周年栽培を成立させている。
各作型には種々の名称がつけられており,ハウスやトンネルなどを用いることによって周年栽培が可能となる果菜類では,次のように分けるのが普通である。(1)促成栽培 収穫時期を早めるため,全生育期間をハウス内で栽培する。(2)半促成栽培 生育の後半にハウスの被覆をとって露地で栽培する。(3)早熟栽培 温床で育てた苗を露地に定植する。場合によっては定植後しばらくトンネルで被覆した後,被覆をとって栽培する。(4)露地栽培 全生育期間を露地で栽培する。(5)抑制栽培 収穫時期を遅くするため,標高の高い冷涼地で栽培したり(高冷地抑制栽培),播種(はしゆ),定植期を遅らせて,秋が暖かく長い地方で栽培したり(暖地抑制栽培),生育の後半をハウス内で栽培したりする(ハウス抑制栽培)。
これに対して,葉菜類や根菜類の多くは霜にあっても枯死せず,また生長や抽だいに対する温度や日長の影響が品種によって著しく異なるので,露地での周年栽培が可能であり,春まき,秋まきなど,播種期によって各作型を区別することが多い。ただし近年では,低温期に生育を促進させたり,品質のよいものを生産したりするためにハウスやトンネルを利用することも多く,そうした場合にはハウス栽培,トンネル栽培と呼んでいる。
今日では野菜のほか,花やイネなどでも作型という言葉が用いられる。野菜や花では周年栽培を目的として種々の作型が分化したが,イネなどでは気象災害や病虫害を回避し,生産を安定させることを目的として作型が分化した。
執筆者:杉山 信男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報