侍・士(読み)さむらい

精選版 日本国語大辞典 「侍・士」の意味・読み・例文・類語

さむらい さむらひ【侍・士】

〘名〙 (「さぶらい」の変化した語)
※天草本平家(1592)二「チョウビャウエノジョウト マウス samurai(サムライ)ガ マウシタワ」
曾我物語(南北朝頃)一「さむらひは、せいちひさく、力はよわけれども」
⑤ 「さぶらいどころ(侍所)②」の略。
家屋雑考(1842)四「侍(サムライ)とは、武家にて武士詰所をいふ名なり」
⑥ りっぱな人物。ひとかどの見識ある人物。
都鄙問答(1739)二「商人は直に利を取るに由て立つ。〈略〉ここを以て正(ただし)き士(サムライ)は、此売物は損銀たち候へ共、負(まけ)て売んと云ふ時は不置(かはず)
物事にきわだった人物を多少の皮肉をこめていう語。なみはずれた人物。たいしたやつ。
故旧忘れ得べき(1935‐36)〈高見順〉八「隣りの四畳半に秋子はもうちゃんと寝てゐた〈略〉ちょいとしたサムライぢゃて━彼は呟き」
[語誌](1)「初心仮名遣」には、「ふ」の表記を「む」と読むことの例の一つとして「さぶらひ(侍)」が示されており、室町期ころから、「さふらひ」と記してもサムライと発音していたらしい。一般的に「さむらひ」と表記するようになるのは、江戸中期以降である。
(2)平安時代、皇后宮・中宮、そのほか後宮・親王・摂関家・大臣公卿家などにみな侍がいて、恪勤(かくご)と呼ばれ、家司の下層部を占めた。これらは多く五位・六位の者が用いられたので、次第にこれら諸家に仕える五位・六位の者を侍と呼ぶようになり、一種の家格となった。また、内裏や院御所・東宮御所に詰めて警衛に任ずる者、内裏の滝口・院の下北面・武者所・東宮の帯刀(たちはき)なども「侍」と呼ばれた。貴人の身辺護衛という性質上、当時地方に成長してきた武士の中から多く任用され、これにより侍という名称は、武士、特に上級武士の身分的呼称に転用されるに至ったと解される。
(3)鎌倉幕府では、侍は僕従を有し、騎上の資格ある武士で、郎従等の凡下と厳重に区別する身分規定が行なわれた。しかし、鎌倉中期以降、その範囲が次第に拡大、戦国時代以降は、諸国大名家臣をも広く侍と称するようになり、武士一般の称として用いられるようになる。
(4)江戸時代の法制面では、幕臣中の御目見(おめみえ)以上、即ち旗本を侍と呼び、徒(かち)・中間(ちゅうげん)などの下級武士とは明確に区別した。諸藩の家臣についても、幕府は中小姓以上を侍とみなした。

さぶらい さぶらひ【侍・士】

〘名〙 (後世は「さむらい」。動詞「さぶらう(候)」の連用形の名詞化)
① 側近く仕えること。目上の人の側にはべること。また、その人。さぶらいびと。
※古今(905‐914)東歌・一〇九一「みさぶらひみかさと申せ宮木ののこの下露はあめにまされり〈みちのくうた〉」
② 平安時代以後、親王・摂関・公卿家、寺家、社家、院家に仕えて家務をつかさどった家人(けにん)。多く五位、六位に叙せられた。また、武器をもって貴人の警護に当たった宮中の滝口、院の北面(ほくめん)、東宮の帯刀(たちはき)などの武士をもいう。さむらい。
※源氏(1001‐14頃)東屋「まだ、つとめて睦しくおぼす下臈さぶらひ一人」
※徒然草(1331頃)一七八「或所のさぶらひども、内侍所の御神楽を見て」
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「ある限り、廊を御曹司にし給て、板屋をさぶらひにしてなんありける」
④ 清涼殿の殿上の南にあって、侍臣が遊宴した所。下侍(しもさぶらい)
※古今(905‐914)夏・一六一・詞書「さぶらひにて、をのこどものさけたうべけるに」
⑤ 中世、近世、武家に仕える者。特に、鎌倉・室町時代には上級武士、江戸時代の幕府では旗本、諸藩では中小姓以上の称。武士。家の子。さむらい。
※平家(13C前)四「いくらもなみゐたりける平家のさぶらい共」
※随筆・松屋筆記(1818‐45頃)九五「武家を侍(サフラヒ)といふ事、侍はもと近侍の臣をいふ事なるに後世は武家を皆さむらひといへり」
⑥ 寺院の門跡、院家で庶務にあたる下級僧侶。
※大乗院寺社雑事記‐文明二年(1470)正月一日「宣舜都維那今日召付侍、清賢沙汰也」
[補注]「日葡辞書」の「Saburai(サブライ)」の項には、「貴人、高位の人」という説明がある。
[語誌]→「さむらい(侍)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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