公務員はすべて国民全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない(日本国憲法15条2項)という趣旨を、簡潔に表した語として用いられる。それは、単に、公務員は主権者たる国民の使用人として国民に奉仕する者(公僕)であるというだけでなく、公務員は国民全体の利益のために奉仕すべきであって、国民のなかの一部の者(一党派や一部の社会勢力など)の利益のために奉仕してはならないということを意味する。そして、公務員が「全体の奉仕者」であることは、公務員の各種の義務の根拠とされる(国家公務員法96条1項・82条1項3号、地方公務員法29条1項3号・30条)。
ただし、争議行為の禁止(国家公務員法98条2項・3項、地方公務員法37条)や政治的行為の制限(国家公務員法102条、人事院規則14-7、地方公務員法36条)などが、この「全体の奉仕者」ということだけですべて説明がつくかどうかについては、争いがある。最高裁は、全逓(ぜんてい)中郵判決(昭和41.10.26)では、公務員が全体の奉仕者であるということから争議行為をすべて禁止することは許されないと判示したが、全農林警職法事件判決(昭和48.4.25)でこれを修正した。また、政治的行為の制限に関しても、猿払(さるふつ)事件判決(昭和49.11.6)において、公務員の「全体の奉仕者」性を強調して、前述の国家公務員法および人事院規則の規定を合憲としている。
また、1990年代以降の論議のなかには、国立大学教官が民間企業の役員を兼務するのは、営利企業の役員兼務を規制する国家公務員法第103条に違反するだけでなく、憲法第15条にも違反する(したがって法律改正による制度改革もできない)とする見解(1999)や、国会議員が当選後に所属政党を変更しても、議員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではないから、その者に投票した選挙民による当該議員の罷免請求は認められないとする裁判例(2000)などがある。
[真柄久雄]
『法学協会編『註解日本国憲法 上巻2』(1953・有斐閣)』▽『宮沢俊義・芦部信喜著『全訂日本国憲法』(1978・日本評論社)』▽『佐藤功著『憲法 上』新版(1983・有斐閣)』
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