デジタル大辞泉
「共感覚」の意味・読み・例文・類語
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きょう‐かんかく【共感覚】
- 〘 名詞 〙 一つの物理的刺激に対して、本来それに相応して起こるべき感覚以外に起こる感覚。たとえば、音を聞いて色を感じたりすること。副感覚。〔いろは引現代語大辞典(1931)〕
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きょうかんかく
共感覚
synesthesia
共感覚とは,ある感覚刺激によって,ほかの感覚を得る現象である。たとえば,音を聞いたり文字を見たりすると,色を感じる現象であり,ごく一部の人だけが経験できる。さまざまなタイプの共感覚が存在することが知られているが,共感覚者の7割近くは色字共感覚者である。色字共感覚者は,色のない文字に対して,共感覚色を感じることができる。共感覚者間で共感覚色が一致することはめったにないが,共感覚色を規定する要因を明らかにしようとする研究が盛んに行なわれている。また,各文字と共感覚色の対応は一生変わらないと考えられており,このような頑健性は非共感覚者による文字と色との一時的な連想学習の結果とは異なる。また,色調や色の濃淡,材質感などに関する共感覚者の説明は,きわめて厳密である場合が多い。医学的には,18世紀の初頭から共感覚の存在が報告されているが,統制された共感覚研究に取り組み始めたのは比較的最近であり,2000年代になってから著しい発展を遂げている。その結果,たとえば共感覚者の割合は,1990年代には10万人に1人といわれていたが,最近では1%程度存在すると考えられている。以前は共感覚をサバン症候群と同様の天才的能力ととらえがちであったが,現在は共感覚がいわゆる天才的能力とは異なると考えられている。多くの芸術家が共感覚者だったという主張にも,疑問を提起する研究者が少なくない。われわれはだれでも共感覚を引き起こす可能性を有する感覚属性間の結合関係をもっているが,たとえば非共感覚者は属性間の興奮性結合と抑制性結合のバランスがうまくとれているので交差活性化しないが,共感覚者は属性間の興奮性結合と抑制性結合のバランスに偏りがあり,交差活性化するのではないかと考えられる。共感覚には遺伝的要因があり,共感覚者の一等親血縁者が共感覚者である可能性が高い。
非共感覚者の視覚情報処理においてもさまざまな感覚属性と相互作用する可能性,すなわち共感覚的な認知が存在する。たとえば,ブーバ/キキ効果Bouba/Kiki effectは1929年にゲシュタルト心理学者のケーラーKöhler,W.が報告し,最近になってラマチャンドランRamachandran,V.S.らが再び取り上げた現象である。丸みを帯びた滑らかな曲線で囲まれた図形と,直線で囲まれ鋭く尖った図形の二つについて,その名前はブーバとキキのどちらであるかを選択してもらうと,母語や年齢の違いに関係なく,98%の人たちが丸みを帯びた図形をブーバ,尖った図形をキキだと答える。これは,言語音と視覚的形状の共感覚的な認知である。すなわち,われわれが日常物体など何に対して命名するときにも,無意識のうちに共感覚的な認知に基づいている可能性がある。このような現象から,共感覚という現象は決して特殊ではなく,共感覚者と非共感覚者という二分法的な見方をすべきでもなく,共感覚的性向が連続的に分布していると考えた方が妥当であろう。 →感覚
〔横澤 一彦〕
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共感覚 (きょうかんかく)
synesthesia
ある刺激に対して,その本来の感覚に,ほかの感覚が伴って生ずる現象。外界からの刺激は目,耳などのそれぞれ固有の感覚受容器を通って,視覚,聴覚などの感覚属性がもたらされる。こうしたさい,ときには一つの感覚受容器からもたらされる感覚属性の感覚(一次感覚)が他の種類の感覚属性の感覚(二次感覚)をもたらすことがある。たとえば音をきいて色が見える(色聴)人がいる。このように,一つの感覚系統に属する直接の反応のほかに,本来,その感覚器以外の系統に属する感覚反応が起こる現象が共感覚である。高い声を〈黄色い声〉というように,低音に暗い色,高音に明るい色を感じる共感覚現象があるが,このさいの二次感覚は主観的現象と受けとられ,現実性を欠く。ある種の薬物の中毒や癲癇(てんかん)の前兆現象のときには,そばで話された言葉と同時に頭に痛みを感じたり,音楽から色彩や味,においをありありと感じるような共感覚異常が起こることがある。
執筆者:中根 晃
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共感覚
きょうかんかく
synesthesia
音を聞くと色が見えたり、味に色を伴ったりするなどのように、ある一つの感覚受容器に刺激が与えられたとき、他の種類の感覚が影響を受けて、その感覚に対応する刺激も与えられているように感じる現象。とくに、ある調子の音を聞くと、その音に結び付いて一定の色を感じることを色聴という。しかし高い音には明るい色、低い音には暗い色が、目に見えるように感じるといった典型的な共感覚保持者はきわめてまれであるが、ときには一般の人にも共感覚と類似する現象がみられることもある。たとえば、黄色い声、甘いささやきのように感覚領域の違うものを連想するとか、高い音で色が輝きを増すように感じるとか、などである。
[今井省吾]
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共感覚【きょうかんかく】
一つの感覚が他の異なる領域の感覚をひき起こす現象。synesthesiaの訳。典型的なものは,特定の音を聞くとそれに対応した特定の色が見えるという色聴の現象である。色聴はまれにしかみられないが,〈黄色の声〉とか〈鋭い音〉などの表現は,異なる感覚領域間に,ある種の共通性が存在することを示している。
→関連項目色聴
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世界大百科事典(旧版)内の共感覚の言及
【幻覚薬】より
…身体面では,めまい,脱力感,震え,吐き気,目のかすみがある。知覚変化は,色や形が変わって見える,焦点がぼける,音に敏感,音がすると色が見える(共感覚)など。気分変化には,幸福感,もの悲しさ,いらいら,緊張感がある。…
※「共感覚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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