翻訳|divide
地理学用語。隣接している流域間の境界線のことで,分水線,流域界ともいう。異なる水系からなる流域間の境界線を主分水界,同一水系内の本川と支川の流域間や,支川の流域間の境界線を副分水界という。分水界は,一般には降水がそこを境にしてどちらに流下するか,という観点から,地表水について考えられるので,稜線に沿って形成される。特別な場合には,地下水分水界が扱われることもある。地下水分水界は地下水の排水域間の境界である。地表水の分水界と地下水の分水界の位置は,地質構造など(たとえば,難透水層となる基盤岩の傾斜など)の影響により,しばしばずれることがある。とくに,カルスト地域(カルスト地形)ではドリーネや石灰洞が存在するために流路が複雑となり,分水界を決めるのは非常に難しい。
分水界の位置は不動のものではなく,水系の発達に伴い移動する。水系は浸食作用の著しい地域でより早く発達する。したがって,降水量の分布,山地を構成する岩石の浸食のされやすさや堆積岩の場合にはその傾斜,河川の大小,地殻運動などの影響が分水界の位置を徐々にではあるが移動させる。浸食力の大きい河川が谷頭浸食を続け,それまでの分水界を越えて隣の流域に侵入し,その流路に達した場合,その地点より上流の隣の河流は,侵入してきた河谷へと注ぐことになる。このような現象を河川の争奪piracyと呼ぶ。河川の争奪は急激な分水界の移動をもたらし,争奪された地点より下流側の流路の状況を一変させる。急激な分水界の移動は河川の争奪のほか,火山活動などに伴う河谷の急速な埋積や,断層活動,氷河の前進や後退などによっても発生する。
脊梁山脈の稜線を連ねる分水界は,大局的にみれば,天候界や気候界を形成する。日本では,日本海に排水する河川と,太平洋に排水する河川の流域間の分水界を連ねたものが,日本海側と太平洋側との天候界や気候界となっていることがよく知られている。
執筆者:松田 磐余
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
隣り合った流域の境界線。河川水は地表水と地下水とから涵養(かんよう)されるものであるから、地表面分水界と地下水流動系の分水界とが存在する。熊本県の阿蘇山(あそさん)西麓(せいろく)の台地部のように、地表面分水界と地下水流動系の分水界がまったく異なり、大量の地下水が隣接流域へ流出している地域もある。地表面分水界は一般に稜線(りょうせん)に沿うので分水嶺(れい)ともよばれるが、平地部やカルスト地域ではこの分水界がはっきりしないことがある。
[榧根 勇]
『堀公俊著『日本の分水嶺――地図で旅する列島縦断6000キロ』(2000・山と渓谷社)』
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