熊本県にある活火山で気象庁が24時間監視する「常時観測火山」の一つ。東西約17キロ、南北約25キロの巨大なカルデラ内にある主峰の高岳など十数個の小火山(火口丘)で構成されている。このうち中岳は有史以来、噴火を繰り返しており、数個の火口が南北約1キロに連なる「複合火口」になっている。近年、活動的なのは北端の第1火口で、非活動期には「湯だまり」と呼ばれる火口湖が形成される。カルデラ内は牛馬の放牧地や観光地になっており、防災に向けて2007年に噴火警戒レベルが導入された。
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九州のほぼ中央に位置する複式火山で、
阿蘇山の火山活動は古くからあったが、記録上の初見は延暦一五年(七九六)である(日本後紀)。平安初期祈祷仏教が盛んになると、噴火口の異変が国家の災異の前兆として畏怖され、変化があればその都度大宰府から中央政府に報告され、神の怒りをなだめるため種々の処置がとられた。阿蘇の主神である健磐龍命は九世紀中頃には高良玉垂神や宗像神より上位に立ち、宇佐八幡大菩薩に次ぐ九州の代表的な神となった。阿蘇神社には奉幣などの神事とともに、読経などの仏教的行事が神前で執行され、度者・僧徒が置かれて仏教的儀式を取扱うこととなった。山上の現在の
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熊本県北東部にある火山。阿蘇五岳すなわち根子岳(1433m),高岳(1592m),中岳(1506m),杵島岳(1326m),烏帽子岳(1337m)を中心とする火山群とそれをとり囲む大規模な阿蘇カルデラとからなる。狭義に火山群のみをいうことも多い。火山景観を主とする豊かな観光資源に恵まれ,阿蘇国立公園に属する。全域が標高数百m以上に位置し,カルデラ内の火山群は,五岳のほかに往生岳(1238m),御竈門(おかまど)山(1153m),夜峰山(913m),米塚(954m)その他いくつかの山体や火口などで構成され,全体として東西方向に並ぶ。山容(火山地形)は山体ごとに変わり多様で,多くの山体は成層火山であるが,砕屑丘(さいせつきゆう)や溶岩円頂丘もある。烏帽子岳は側火山の千里ヶ浜をもつ。著しく浸食され先カルデラ火山の疑いがある根子岳を除けば,ほかの山体はいずれも後カルデラ火山(中央火口丘)である。有史以後の噴火活動は中央火口丘の一つである中岳火口からの噴火に限られていて,西暦553年からの噴火記録が残されている。おもに赤熱噴石を火口から噴出するストロンボリ式噴火を繰り返し,長期間継続して多量の火山灰(熊本地方の方言では〈よな〉と呼ぶ)を放出するものである。たび重なる火山灰の降下は農作物などに甚大な被害を与えてきた。近年は観光開発が進み,噴火による死傷者,観光施設の損壊も時々発生している。
カルデラは東西直径約18km,南北約23km,標高800~1200m,比高400~600mのカルデラ壁でとり囲まれ,規模の大きさとカルデラ地形の鮮明さとで世界的に有名である。阿蘇カルデラは洪積世中・後期に4回にわたって広域に火砕流を噴出する噴火を繰り返し陥没によって形成された。このときの噴出物は九州中央部の直径100km以上の広範囲に溶結凝灰岩などとして分布している。最終期の噴出物の年代測定結果は約3万~5万年前となっていて,約3万年以前にカルデラが形成されている。カルデラ中央部の凹地は一時期湖であり,その後,中央火口丘群が噴出し,湖水は消失し,北と南にそれぞれ阿蘇谷,南郷(なんごう)谷と称する平地が出現し,現在の姿となった。阿蘇谷にはカルデラ北半部の水を集めて黒川,南郷谷にはカルデラ南半部の水を集めて白川が貫流している。両河川はカルデラ西端部の立野付近で合流し,カルデラ外へ通じる唯一の河谷〈立野火口瀬〉を経て西流して有明海に注ぐ。カルデラ内には数ヵ所に温泉がある。湯ノ谷,地獄・垂玉(たるたま),栃ノ木・戸下などの温泉は中央火口丘西側斜面上または山麓にあり,泉温45~50℃の自然湧泉で,片隅,内牧(阿蘇温泉),赤水などの温泉は阿蘇谷にあり,泉温25~45℃で,おもに掘削による温泉である。阿蘇地域は気候的には準高冷地で,特に冬は冷えこみが厳しく,山地高所では積雪も珍しくない。カルデラ内には約5万人が居住し,ほとんど阿蘇谷および南郷谷の平地部に集中している。平地部には阿蘇谷では水田,南郷谷では畑が多いが,中央火口丘斜面,カルデラ壁下部,さらに外輪山斜面などには原野が広がり,おもに牛の放牧地,採草地となっている。阿蘇谷には熊本~大分を結ぶ豊肥本線,国道57号線が貫通し,南郷谷には西端の立野と南東端の高森間に南阿蘇鉄道線が通じる。国立公園阿蘇は長崎と別府を結ぶ国際観光ルートの中央に位置し,活動を続ける中岳火口,四季の変化に富む雄大な景観,温泉などの観光資源に恵まれていて,訪れる観光客も多い。
執筆者:久保寺 章+横山 勝三
阿蘇カルデラの北部にある平地。阿蘇火山中央火口丘を隔てて南隣にある南郷谷と同成因のカルデラ床である。谷の北側には高さ数百mの急崖(カルデラ壁)が,いくつか岬状をなして突き出しており,南側は中央火口丘北麓のなだらかな斜面で限られる。東西幅約15km,南北幅は広い所で5km以上におよぶ。標高500m内外で全域が黒川の流域に属し,縁辺部には崖錐や扇状地が張り出している所もあるが,主体は平たんな沖積平野をなす。5700haの耕地があり,その3/4が水田である。阿蘇市の旧阿蘇町および旧一の宮町に属して約3万人が居住し,南郷谷より人口支持力が高い。片隅,内牧,赤水には温泉があり,特に内牧は古くから温泉で栄えた温泉町である。高地にあるため冷涼で,低地にある熊本市に比べて年平均気温は3℃ほど低い。
阿蘇カルデラの南部にある平地。北側は中央火口丘の南麓斜面で,南側は急斜面のカルデラ壁で限られる。東西方向の長さ約20km,南北の幅数kmで,全域が中央部を西流する白川の上流域に属する。標高は北東端の最上流域で700m余,西端の最下流部で300~400m。南北両側から白川の流路へ向かって扇状地や崖錐が張り出し,阿蘇谷に比べて起伏が多く全体的に緩傾斜地が卓越する。南阿蘇村,高森町に属して約2万人が居住し,4700haの耕地のうち6割は畑である。南郷谷は阿蘇登山道路(2000年無料開放)で阿蘇山上と結ばれているが,観光の面では南郷谷側は阿蘇谷側と比べて裏通り的な性格をもつ。
草千里ヶ浜,草千里ともいう。阿蘇山西部の烏帽子岳北側中腹に側火山の形で付随している二重火口。標高1100m余。外側火口は直径約1kmのほぼ円形の輪郭をもち,その内側に二つの小丘が数百m離れて東西に並び,この小丘の中間部が内側火口である。両火口は浅く,全域が起伏の少ないなだらかな草地となり,牛馬が放牧され観光客のいこいの場である。外側火口底西部と内側火口底には浅い水たまりがあることが多い。
執筆者:横山 勝三
阿蘇山の名称は火を噴く山を意味するアソオマイに由来するともいわれ,またその噴火口が御池(みいけ)(神霊池)と呼ばれているように,阿蘇山信仰の中核は噴火口にあった。御池の神である健磐竜(たけいわたつ)命を主祭神とする阿蘇神社には3月に火振神事があり,また末社の霜神社では火焚の神事が8月19日から10月16日までの約60日間行われるなど,火の山にふさわしい行事を伝えている。阿蘇山には阿蘇神社が一の宮におかれたほか,山上古坊中(ふるぼうちゆう)には西巌殿寺を中心として37坊の寺院群が存在し,大宮司職で古代国造の系譜を負う阿蘇氏の保護と規制のもとに一山が運営されてきた。しかし,天正年間(1573-92)に大友・島津両氏の確執により山上古坊中は離散し,改めて1600年(慶長5)加藤清正によって山麓部に再興された。これを麓坊中と呼ぶ。37坊は祈禱僧の集団衆徒方と,阿蘇大峰修行を支配した行者方とに分かれ,その配下には山伏がおり,衆徒行者は坊舎に,山伏は庵にそれぞれ居住した。近世には一山は東叡山寛永寺の支配を受け,行者山伏は醍醐寺三宝院に属した。
執筆者:宮本 袈裟雄
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熊本・大分両県にまたがり、おもに玄武岩からなる活火山。西日本火山帯の火山フロント(前線)上にある。かつての霧島(きりしま)火山帯に属し、阿蘇くじゅう国立公園の中心地。火の国熊本の象徴である。
阿蘇地域は第四紀更新世の初めごろ(約220万年前)から火山活動が盛んで、第四紀更新世(洪積世)後期(約27万~約9万年前)に、超巨大噴火を4回繰り返し、大量の火山灰と火砕流が放出された。4回目の大噴火の噴出量だけでも約600立方キロメートル以上に達する。北中部九州にたまった火砕流堆積(たいせき)物は溶結して、溶岩のように堅い凝灰岩となったので、阿蘇溶岩ともよばれた。この4回目の超巨大噴火の際におきた陥没によって現在みられる直径20キロメートル前後の阿蘇カルデラができた。
その後、カルデラ内に湖を生じたが、更新世末ないし完新世初頭約1万年前に、断層か侵食により、西側の外輪山が切断されて、立野(たての)火口瀬ができ、湖水が流出した。そのころから、カルデラ内でふたたび噴火が繰り返され、最高峰の高岳(1592メートル)や、中岳(1506メートル)、烏帽子岳(えぼしだけ)(1337メートル)、杵島岳(きしまだけ)(1326メートル)などの中央火口丘群を生じた。根子岳(猫岳)(ねこだけ)(1433メートル)だけは4回目の火砕流噴火前から存在していたと考えられている。2万5000年前ごろからの噴火は中岳に限られる。西暦553年の中岳の噴火記録は日本最古である。中岳は約7個の火口が南北に連なる長径約1100メートルの複合火口をもつ。玄武岩質マグマが小爆発を繰り返す、ストロンボリ式噴火が特徴的である。昭和初期から北端の第一火口が活動中。
第二次世界大戦後の観光開発によって、自動車やロープウェーによる火口見物が可能になった。そのため死傷者が顕著に増大した時期がある。火山活動の観測、研究のため、1928年(昭和3)西日本で最初に京都大学阿蘇火山研究施設(現在の地球熱学研究施設火山研究センター)が、また1931年には阿蘇山測候所(現、阿蘇山特別地域気象観測所)が設けられた。山麓にある阿蘇山特別地域気象観測所の基地事務所(無人)に設置してある火口監視カメラや震動波形記録を自動観測し、必要に応じて火口を直接観測している。観測結果は福岡管区気象台の火山監視・情報センターに報告され、それを元に火山情報が発表されている。草千里ヶ浜には阿蘇火山博物館がある。
[諏訪 彰・中田節也]
『中村治四郎監修『阿蘇山』(1962・中村英数学園)』▽『松本夫・松本幡郎編『阿蘇火山』(1981・東海大学出版会)』▽『熊本日日新聞社編集局編著『新・阿蘇学』第3版(1994・熊本日日新聞社)』▽『長野良市著『阿蘇・宇宙――火と神々の棲む山』(1997・熊本日日新聞社)』▽『一の宮町史編纂委員会編、渡辺一徳著『阿蘇火山の生い立ち――地質が語る大地の鼓動』(2001・一の宮町)』
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出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
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