輪郭の内側を塗りつぶした単色画像。影絵。広義には旧石器時代の洞窟(どうくつ)画や、ギリシア、エトルリアの壺絵(つぼえ)にも同種の画像があるが、語源は、18世紀フランスで緊縮財政策をとった蔵相エティエンヌ・ド・シルエットÉtienne de Silhouette(1709―67)が、切絵による横顔の肖像画、狭義のシルエットを好み、自身でも趣味として制作したことによる。当時「シルエット」には「安上がり」の意が込められていたという。18世紀なかばから19世紀なかばにこの簡便で安価な影絵は全ヨーロッパ的に流行した。専門画家としてイギリスのジョン・マイアースJ. Miersが著名。また文豪ゲーテも愛好したといわれている。しかし写真術の出現により衰微した。
[大井健地]
服飾用語としては、一般には着装時の服の形や全体的調子を表す外郭線をさし、流行の服の形態やデザインを表すものでもある。シルエットは服装の身上(しんじょう)であり、これをもっとも効果的に創造するため、生地(きじ)、構成的・装飾的要素などが考慮される。さらにそれをよりよく生かした状態で着装できるよう、下着が大きな役割を果たすこともある。また、近世において女性が用いた、腰を不自然に締め付けるコルセットや、ヒップ・ライン以下を極端に膨らませるための腰枠、腰当て、詰め物などもシルエットを強調するためのものだった。服自体に詰め物をすることもある。
服装のシルエットは実に多種多様である。とくに女性の服装においては、何人かの学者がその分類を試み、それらを直線形、釣鐘形、それに腰当てを使ったバッスル形に(アメリカのヤングA. Youngの説)、あるいは楕円(だえん)形、四角形、三角形、砂時計形に(フェザーストンM. FetherstoneとマークD. H. Maackの説)、あるいはテーラード形、ドレープ形に(モートンG. Mortonの説)、また流動線形、ふっくら形、箱形、T形、シュミーズ形、バックフレア形に(ヒルハウスHilhouseとマリオンMarionの説)大別している。男子服をも含めてとらえたカニングトンC. W. Cunningtonは、婦人服はX字形、男子服はH字形だとしている。X字の交差する点をウエストとし、その高さ、角度の相対的変化のなかでの組合せによって、すべてのシルエットがとらえられるというものである。これをスカートだけについていえば、落下傘形のブファン(ファージンゲール、フープ、クリノリンなどが含まれる)、裾(すそ)がらっぱ状に膨らむギブソン・ガール形、これが背面のヒップで強調されたバッスル形、直線形とに分けられる。H字形とされた男子服は、上着とズボンとの組合せを一タイプとしてとらえられている。
X字型とした婦人服の上下のシルエットは各時代によって変化し、時代を特徴づけるものだが、その形から直線形、曲線形に分類できる。
このほかに、服の構成上の特徴からとらえたシルエットがある。シャツウエスト・シルエット(襟元からスカートの裾までボタン留めになった服の外形)、ドレープ・ド・シルエット(全体にドレープを取り入れた服の外形)、ティアー・シルエット(段々飾りのある服の外形)などがそれである。
[田村芳子]
『石山彰編『服飾辞典』(1972・ダヴィッド社)』▽『服装文化協会編『服飾大百科事典』(1976・文化出版局)』▽『E. Nevill JacksonThe History of Silhouettes(1911, The Connoisseur, London)』
通常白地に黒でくっきりした輪郭の図を表した単色画の総称で,狭義にはその中の単色プロフィル肖像画をさす。この形式の肖像画は,強い光を受けた人物の横顔が紙面に投ずる影を写しとり,しばしば機械的手段で縮小して作られる簡単,安価なもので,18世紀半ばから19世紀半ばにかけてヨーロッパ中で流行をみた。それには,簡潔な輪郭線による側面観の把握が時代の新古典主義的趣味にかない,人相学者ラーファターが《人相学論考》の図解に用いたことも手伝っている。19世紀にはいると紙を直接切り抜くシルエットがさかんとなり,全身像で動きを伴った作品も作られる。しかし,小型で安価で簡便な肖像画の形式としてのシルエットは,1850年ごろ写真が一般化したことにより決定的打撃をうけた。なお,シルエットという語はフランスの財政監査官ド・シルエットÉtienne de Silhouette伯爵(1709-67)の名に由来するが,その理由として吝嗇家の伯爵が単色肖像画しか飾らなかったという説があるものの,確かではない。
執筆者:高橋 裕子
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… 切紙絵の代表的なものにシルエットの切紙があり,大道芸として即席に人物のシルエットを切りぬく芸人がみられるが,そのすぐれたものは影絵芝居やアニメーション映画にも応用され,日本では回り灯籠にも応用されている。シルエットsilhouetteという言葉は,18世紀のフランスの蔵相エティエンヌ・ド・シルエットの緊縮財政によって画家までも色彩をつかわず,黒白の影絵を描いたことに由来すると伝えられているが,日本では文政年間(1818‐30),人の似顔を紙に切りぬいて見世物にする芸人があったことを《嬉遊笑覧》は伝えている。19世紀からヨーロッパで行われた着せ替え人形も,厚紙を切りぬいた裸の人形に切紙細工の衣装を着せる遊戯で,衣装や人形は市販されたが,手製のものによっても遊ばれた。…
…小学校の工作教育で行われる切紙模様はもっと自由に模様を切りぬき,つないでいくものが多い。 切紙絵の代表的なものにシルエットの切紙があり,大道芸として即席に人物のシルエットを切りぬく芸人がみられるが,そのすぐれたものは影絵芝居やアニメーション映画にも応用され,日本では回り灯籠にも応用されている。シルエットsilhouetteという言葉は,18世紀のフランスの蔵相エティエンヌ・ド・シルエットの緊縮財政によって画家までも色彩をつかわず,黒白の影絵を描いたことに由来すると伝えられているが,日本では文政年間(1818‐30),人の似顔を紙に切りぬいて見世物にする芸人があったことを《嬉遊笑覧》は伝えている。…
※「シルエット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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