精選版 日本国語大辞典 「千早振」の意味・読み・例文・類語
ちはやぶる【千早振】
- [ 1 ] 枕 ( 動詞「ちはやぶ」の連体形から。中世・近世は「ちはやふる」「ちわやふる」とも )
- ① 地名「宇治」にかかる。かかり方は、勢い激しく荒々しい氏(うじ)の意で、「氏」と同音によるか。一説に、「いつ(厳)」との類音による。
- ② 勢いの強力で恐ろしい神の意で、「神」およびこれに類する語にかかる。
- (イ) 「神」にかかる。
- [初出の実例]「千早振(ちはやぶる)神の持たせる命をば誰が為にかも長く欲りせむ」(出典:万葉集(8C後)一一・二四一六)
- (ロ) 「神」を含む「神世」「神無月」「現人神」などにかかる。
- [初出の実例]「ちはやぶる神世も聞かず龍田川から紅に水くくるとは〈在原業平〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二九四)
- (ハ) 「神」に縁の深い物を表わす語、「斎垣(いがき)」「天の岩戸」「玉の簾」などにかかる。
- [初出の実例]「千早ぶる天の岩戸を押し開き我に片寄れみごもりの神」(出典:類従本長能集(1009頃))
- (ニ) 「神威(いつ)」の意から、それと類音の地名「伊豆」にかかる。
- [初出の実例]「ちはやふる伊豆の御山の玉椿八百万代(やほよろづよ)も色は変らじ」(出典:金槐和歌集(1213)賀)
- (イ) 「神」にかかる。
- ③ ②と同じかかり方で、特定の神の名、神社のある場所などにかかる。
- (イ) 特に「神」を含む地名にかかる。神社のある場所であることが多い。
- [初出の実例]「ちはやぶる神なび山のもみぢ葉に思ひはかけじ移ろふ物を〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・二五四)
- 「ちはやぶる神田の里の稲なれば月日とともにひさしかるべし〈大江匡房〉」(出典:千載和歌集(1187)賀・六三五)
- (ロ) 著名な神社やその所在地として「賀茂」「平野」「三上山」「香椎宮」「布留」「斎宮(いつきのみや)」などにかかる。
- [初出の実例]「あはれ 千者也布留(チハヤフル) 賀茂の社(やしろ)の 姫小松 あはれ 姫小松 万代(よろづよ)経(ふ)とも 色は変(かは) あはれ 色は変らじ」(出典:東遊(10C後)求子歌)
- 「ちはやぶる香椎の宮のあや杉は神のみそぎにたてるなりけり〈よみ人しらず〉」(出典:新古今和歌集(1205)神祇・一八八六)
- (ハ) (イ)(ロ)以外の諸所の神社名、神社のある地名、神の名などにかかる。
- (イ) 特に「神」を含む地名にかかる。神社のある場所であることが多い。
- [ 2 ] 〘 名詞 〙
- [ 3 ] 落語。在原業平作の「ちはやぶる神世も聞かず龍田川から紅に水くくるとは」の名歌を物知りぶって珍解釈して教える滑稽を主題とする。さげはぶっつけ落ち。別名「百人一首」。
千早振の語誌
( 1 )動詞「ちはやぶ」から転じた語で、「いちはやぶ」や「いちはやし」と同源と考えられる。
( 2 )中古以後は[ 一 ]③のように「神」の他、広く神社や神社のある地名にかかる例が多く見られるようになり、中世には[ 二 ]①のように、「ちわやふる」の形も生じ、意味も変化した。