反応工学(読み)はんのうこうがく(その他表記)reaction engineering

改訂新版 世界大百科事典 「反応工学」の意味・わかりやすい解説

反応工学 (はんのうこうがく)
reaction engineering

化学工業における化学反応装置,製鉄工業における溶鉱炉,食品,医薬工業における発酵槽など多くの工業反応装置は,その特性が製造プロセス全体に支配的な影響を与える場合が多い。このような意味で重要な反応装置の開発,選定設計操作制御等を合理的に行うための工学を反応工学という。歴史的には,化学工学の一分野として1930年代に誕生し,徐々に体系化された。反応工学において,反応の速度や選択性等の反応特性を,温度,圧力濃度,さらには触媒,酵素などの関数として整理する工業反応速度論は重要な位置を占めるが,それだけでは前記の目的を達しえない。反応装置の中で進行する反応は多種多様であり,非常に複雑である。その複雑さは主として,装置内の反応が,物質や熱の収支による制約のもとに,物の流れ,伝熱,拡散等の移動過程とかかわり合いながら進行する複合現象であることに起因している。たとえば,反応熱によって装置内に温度分布が生じると反応特性が場所的に変わるし,流れの状態が変わると装置内の様子は非常に変わってくることが多い。また,移動過程として総称される内容はさまざまで,たとえば,装置規模の流体の流れ,固体粒子,液滴,気泡中の伝熱や拡散,異相系界面に存在する流体力学的境界層における移動過程,さらにはミセル生体膜等におけるミクロな移動過程など,現象の規模や時定数を異にする多くの過程が存在する。このように多様な物理的現象と反応とが相互に関連して反応装置全体の特性が決定されている。こうした複合現象を忠実に把握し,解析し,モデル化を行う等の工学的解析に基礎を置くことによってはじめて,反応装置の取扱いに関する反応工学の目的を達成することが可能となる。したがって,反応速度論,移動速度論,熱力学,流体力学,物性論等を中心とし,広く理学,基礎工学の基本原理が反応工学の基礎となっている。また,反応を物理的過程との複合現象として取り扱う手法という特性のゆえに,工業反応装置にとどまらず,大気,水域等の環境,人工臓器,原子力関係などの分野を対象とした反応工学的展開が試みられている。
反応装置 →反応速度 →プロセス工学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「反応工学」の意味・わかりやすい解説

反応工学
はんのうこうがく
chemical reaction engineering

化学工業のプロセスは複雑であるが、その多くは原料の調製、化学反応、および生成物の分離・精製などの工程から成り立っている。反応の前後はいずれも物理的なプロセスであり、この体系化によって単位操作が生まれた。反応工程を分類、体系化するために1930年代に単位反応(ユニットプロセス)の概念が提案されたが、工学的要素が強調され、内容が整備拡充されて現在の形態を整えるに至ったのは、アメリカのハウゲンO. A. Hougen(1893―1986)の功績によるところが大きい。その名称もさまざまであったが、反応工学に定着したのは1950年代に入ってからである。

 反応工学は、合理的、経済的な化学プロセスの選定と操作条件の確立ならびに適切な反応装置型式の選定と設計、操作に関する工学であって、単位操作とともに化学工学の重要な分野の一つである。その内容は化学反応の工学的解析と反応装置の設計に大別される。化学プロセスには化学反応のほかに拡散、伝熱といった物理的過程が含まれているから、実験室の反応速度データからこれらの効果を分離して、化学反応の速度式を求めるのが化学反応の工学的解析である。反応装置の設計では、工業的な反応条件において、物理的過程が化学反応にどのような効果を与えるかを評価し、装置の形状や大きさを決定する。この両者はちょうど表裏の関係にある。したがって反応工学の化学的基礎は化学熱力学、反応速度論であり、工学的基礎は熱、物質および運動量の移動を扱う輸送現象論である。

[大竹伝雄]

『橋本健治著『反応工学』(1979・培風館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「反応工学」の解説

反応工学
ハンノウコウガク
chemical reaction engineering, chemical reactor engineering

反応操作および反応装置の設計をより論理的に設計しようとする目的から生まれた工学の一体系であり,最適な化学プロセスの選定および操作条件の決定,反応装置の設計・制御を対象としている.化学反応装置は化学工業プロセスのいわば心臓部である.大量生産の目的に対して化学反応装置が用いられたのは,18世紀の末ごろからである.とくに,固体触媒を利用した大規模な反応装置が実用化されたのは,20世紀のはじめである.従来は,この化学反応装置の設計は,単に経験の積み重ねで行われてきたが,1930年代に入って,反応装置や反応操作に関する研究が先覚者たちによりはじめられた.なかでもG. Damkönlerは,化学反応の工学的問題の体系づけを最初に試みている.1940年代のはじめから,O.A. HougenおよびK.M. Watsonを中心に,石油化学工業を対象として行われた工学的な研究が,第二次世界大戦後,この分野の発展に大きな貢献をした.なお,反応工学の名称は1950年代に現れた.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「反応工学」の意味・わかりやすい解説

反応工学
はんのうこうがく
chemical reaction engineering

化学工学の重要な分野の一つ。物質やエネルギーの変化・伝播を利用して価値の高い製品を生産する工程を化学プロセスというが,そのなかの物質やエネルギーの変化はいわゆる化学反応によることがほとんどである。この化学反応に関係するプロセス,装置 (反応装置) の解析とその計画,設計,操作に関する学問を総称して反応工学という。

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世界大百科事典(旧版)内の反応工学の言及

【化学工学】より

… 次に化学工学者の努力は化学技術の中核である化学反応を工学的に解析し,反応装置の設計理論を確立することに向けられた。この分野を反応工学という。この分野は50年代から60年代にめざましく発展した。…

※「反応工学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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