一般に古書市場で流通している本の総称。古書業界では便宜的に,新刊書でも入手しうる書物を〈古本〉(英語のsecondhand books),絶版後久しく,価値の高くなった書物を〈古書〉(old books),さらに近世およびそれ以前の貴重書を〈古典籍〉(rare books)と区別している。また造本に従って洋本,和本,唐本,内容に従って一般書,専門書,雑誌バックナンバー,資料ものなどに分かれる。書画,ぞっき本などの関連商品も古書市場で取引される。これらの商品は古書交換市場,顧客,タテ場(廃品集荷場)などを経由して流通する。新刊書とは異なり,古書市場における需給関係だけで価格が左右される。現存部数が少なく,しかも内容や体裁において評価の高いものは〈稀覯本(きこうぼん)〉と呼ばれるが,それに対する関心の増減や経過年数,復刻など代替品の出現により不断に変化する。
ヨーロッパで古書と古書店の概念が確立するのは近世になってからである。それ以前のギリシア・ローマ時代から中世にかけては印刷本は存在せず,必要な書物を筆写していたため,古書の直接購入や保管という問題は生じなかった。ローマ時代には奴隷が,中世には聖職者が筆写の作業に当たり,半ば職業化する者もいた。これらの手稿本を直接に収集したり取引きしたりするようになるのはルネサンス期で,ルイ12世やメディチ家のような王侯や富豪は代理人を介して地中海沿岸や中東地域の修道院等に保管されていた手稿本を多数買いあさった。こうした古写本の収集と活版印刷術の開発がヨーロッパ全体の知的レベルを高める活力となり,当時の代表的知識人であるペトラルカやチョーサーは集書家としても著名である。その後大学や教会に書物を寄贈する習慣(納本制度)も生まれ,古代以来絶えて久しかった大図書館も再現されるようになった。それに伴い古書は商品として取り扱われるようになり,17~18世紀にはヨーロッパ各地に古書店も出現しはじめた。S.ピープスの日記等には当時の古書の流通状況が語られている。やがてノディエ,ナポレオン,ディブディンT.F.Dibdin,ニュートンA.E.Newton,ラングA.Langらの愛書家(愛書趣味)が生まれ,古書を収集する趣味が流行するようになった。またブレーズW.Bladesのように古書を人類の知的遺産とみなし,これを保存するのは後続世代の義務だとする主張も現れ,古書の価値が広く認識されるようになった。
江戸中期の川柳に〈目明き千人まっている古本屋〉(《柳多留》)などの句が散見されるように,当時すでに古本の需要があり,また古本屋も存在した。しかし書物を参照する主たる方法は貸借と筆写であり,貸本屋が果たす役割が大きかった。下って明治初期には社会的変動を反映して士族の旧蔵本や錦絵類が放出され,古書店も漸次増加していった。1890年ごろから,東京の神田地区に業者が集中しはじめ,世界にも例を見ない一大古書街に成長,現在に至っている。古書即売展は,1909年横浜で開かれたものが最初である。目録による通信販売は,すでに1890年に行われている。明治時代,古書の値段は客に対して〈かけひき〉をするのが通例であったが,1913年に岩波茂雄が正価販売を実行してから,漸次追随する者が出てきた。大正時代は古典の再評価が進んだため,古書界は好況で,震災後もいち早く復興,昭和に入るとデパート古書展も開催されるようになった。第2次大戦中は統制で業界も沈滞したが,戦後は研究者人口の増大により市場は拡大,昨今は古書愛好家の多様化を背景に繁栄を続けている。また1950年代ぐらいまで,古書業界は部分市場としての性格が強く,相場に地域的隔差が見られたが,現在は組合などによる組織化により全国市場となり,相場も均一化の方向にある。
→古本屋
執筆者:紀田 順一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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