吉野・芳野(読み)よしの

精選版 日本国語大辞典 「吉野・芳野」の意味・読み・例文・類語

よしの【吉野・芳野】

[1]
[一] 奈良県吉野郡の地名。古代から市場町として発達。製材業が盛ん。南朝の史跡で知られる。吉野山・吉野神宮・金峯山寺・如意輪寺・後醍醐天皇陵などがある。
[二] 奈良県、吉野山地を占める吉野郡一帯の地域の総称。
万葉(8C後)一・二七「良き人の良しとよく見て良しと言ひし芳野(よしの)よく見よ良き人よく見」
[三] 奈良県の南半部を占める郡。紀伊山地の中央部、吉野川(紀ノ川上流部)・十津川・北山川・野迫(のせ)川の流域にある。
※二十巻本和名抄(934頃)六「大和国第六十九 吉野郡 〈略〉吉野〈与之乃〉」
[四] 「よしのやま(吉野山)(一)」の略。
※曾丹集(11C初か)「かごやまのたきのこほりもとけなくによしのの峯は雪消えにけり」
[五] 「よしのがわ(吉野川)」の略。
[六] 謡曲紀貫之が吉野山を訪れ、和歌功徳によって木守(こもり)の神の奇特を見る。廃曲。
[七] 謡曲。番外曲。観世十郎元雅作。紀貫之が吉野山を訪れると、琴をだいた女性が現われて、月下に五節の舞を奏でて、天女となって奇特を見せる。吉野琴。吉野山。
[2] 〘名〙
※雑俳・柳多留‐九三(1827)「植たのは吉野ちらすは井出の花」
※浮世草子・真実伊勢物語(1690)一「こよひのようにたつる物とてよしのこすぎをおりかさね」
④ 江戸時代の歌舞伎の劇場で、舞台下手の上部に設けられた張り出しの二階桟敷の低級な客席。幕を引いた時はその内にはいり、日覆いの桜の釣枝などを裏からながめるところからいう。通天
※雑俳・柳多留‐一一六(1832)「吉野から見る釣枝は裏ざくら」
⑤ あんかけうどんのこと。うどん屋で用いる語。〔商業符牒袖宝(1884)〕
[語誌]((一)(二)について) (1)古来、和歌の題材として好まれた地。上代には、斉明天皇以来、諸天皇によってしばしば行幸があり、「万葉集」にも、吉野に関する歌が多数あるが、大半は、吉野離宮を讚えるもの、吉野川の清さや激しさを賛美するもので、聖地としての意識が色濃く存在していた。
(2)中古になると、吉野はより異郷の地となり、歌でも観念的に扱われるようになる。「万葉集」に頻出した吉野川は「古今和歌集」では、多少取り上げられるものの、実景としてではなく、その流れが恋情の譬えとされることが多くなる。
(3)吉野といえば桜、という連想は、中世に至って定着した。特に西行の吉野山の桜に対する愛着は有名。近世では、歴史的に不遇な人々が逃れてきた悲哀の地としての意識も高まったが、やはり桜の名所としての存在が大きく、現代にまで継承されている。

よしの【吉野・芳野】

姓氏の一つ。

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