近畿地方の南半分にあたる紀伊半島にひろがる山地。紀伊山地は西南日本外帯に属し,北から南へ三波川変成岩,秩父帯の中・古生層および四万十(しまんと)帯の白亜紀~第三紀層が帯状に配列している。ほぼ中央に最高峰の八剣(はつけん)山(1915m,別称仏経ヶ岳)があり,その周辺に向かってしだいに低くなっている。山地はドーム状に曲隆し,周囲は海面下に沈降している。曲隆の運動軸は六甲変動の南北方向の軸と平行するものと思われる。紀伊山地を地形区分すると,脊梁山脈の大峰山脈を中央に,東の台高山脈,西の伯母子(おばこ)山地が南北方向に平行に並び,その南に果無(はてなし)山脈が東西にひろがる。大峰山脈は石英斑岩などの火成岩類の分布に沿って,八剣山,大峰山(主峰山上ヶ岳,1719m),仏生嶽(ぶつしようがたけ)(1805m),大普賢岳,弥山(みせん),釈迦ヶ岳など標高1700~1900mの高く険しい峰が連なる。東の台高山脈には,大台ヶ原山(日出ヶ岳,1695m),三津河落(さんづこうち)山,経ヶ峰山(経堂塚山)などの峰がある。また西の伯母子山地には,伯母子岳(1344m),護摩壇山などの険しい山がみられる。紀伊山地の尾根や山頂には大台ヶ原山や高野山などのように起伏量が100~300mの小起伏面がみられ,隆起準平原の遺物の地形とみられる。また尾根に階段状の定高性がみられ,山地の隆起に伴う山麓階の形成過程が推定されている。なお紀伊山地の南東部の尾鷲市から那智山にかけて,第三紀層の上を熊野酸性岩と総称される石英粗面岩などの火成岩がおおっており,岩質差による差別浸食が顕著で,熊野酸性岩におおわれた地域は標高約900mの急峻な山体を形成し,周辺には第三紀層からなる低い山地がみられる。紀伊山地を刻む河谷のうち,東西方向の西流する紀ノ川,日高川,東流する櫛田川,宮川は地層に対して縦谷をなしている。これに対し北山川,十津川は南流して果無山脈を横切り,熊野川となるが,地層に対して横谷をなしている。これらの山地に刻み込む谷の地形は壮年期的様相を示し,谷底には盆地や平野が乏しい。河道は穿入蛇行(せんにゆうだこう)が著しく,環流丘陵の形成がみられる。
紀伊山地は,年降水量が4000mmをこえる多雨地帯で,気候が温暖であるため,杉などの森林資源が豊富で,吉野,熊野の林業地帯を形成し,紀伊とは〈木の国〉の意である。またこの山地には古来吉野,熊野,高野山の山岳仏教の中心地があり,修験道の行場がみられ,参詣道が発達した。紀南には川湯,湯ノ峰,勝浦などの温泉地が点在し,熊野を中心とした霊場めぐりとともに観光地として多くの人々が訪れている。山地のうち広い面積が吉野熊野国立公園,高野竜神国定公園に指定されている。なお2004年〈紀伊山地の霊場と参詣道〉が世界文化遺産に登録された。
執筆者:水山 高幸+清水 弘
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近畿地方南部、紀伊半島を構成する山地。紀ノ川、櫛田川(くしだがわ)を結ぶ中央構造線以南の西日本外帯に属し、地層は北から古生層、中生層、第三紀漸新層と帯状に配列する。地形も地層配列の影響を受け、中央構造線の方向に並行して褶曲(しゅうきょく)山脈が東西走するが、山地中央部では、半島の最高部をなす八剣山(はっけんざん)(1915メートル)、釈迦ヶ岳(しゃかがたけ)(1800メートル)などを連ねる大峰山脈(おおみねさんみゃく)と、その東側の高見山(1248メートル)から大台ヶ原山(1695メートル)を連ねる台高山脈(だいこうさんみゃく)、西側に護摩壇山(ごまだんざん)(1372メートル)などを含む紀和山脈の3列が南北走する。この間を流れる河川もその影響で紀ノ川、有田(ありだ)川、日高川、富田(とんだ)川などは西流し、櫛田川、宮川は東流するが、日置(ひき)川、古座(こざ)川、熊野川(北山川、十津(とつ)川)は南流する。山地は壮年期の険しい山容を示すが、際だった山頂はなく等高性で、大台ヶ原山や高野山(こうやさん)には山頂平坦(へいたん)面があり、山地は全体として隆起準平原の特徴を示している。
[小池洋一]
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