淡海三船(おうみのみふね)(元開)の著。1巻。779年(宝亀10)の成立。《鑑真和尚東征伝》《鑑真過海大師東征伝》《過海大師東征伝》《東征伝》などの別称がある。鑑真に随伴して来日した思託の請により,三船が思託の著した《大唐伝戒師僧名記大和上鑑真伝》(略称《大和上伝》《大和尚伝》)や鑑真の行状を伝聞して完成したもの。前後6回,12年の歳月を費やして達成された波乱万丈の渡航の行歴が美しい筆致で記されているばかりでなく,8世紀中期の唐の諸州,都市の見聞記が収められている点で海外交渉史としてもその価値はきわめて高い。思託の《大和尚伝》はもと3巻(あるいは6巻)より成る大部のものであるうえ,唐人の漢文で難解であり,伝戒師鑑真の心意を日本の人々に伝えにくかったために,鑑真に帰依した三船に著作を依頼したものである。《東征伝》の原本は伝わっていないが,いくつかの古写本が伝えられ,刊本としては1762年(宝暦12)に東大寺戒壇院の洞泉性善が,諸本を校合して刊行した戒壇院版が有名である。
執筆者:堀池 春峰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「東征伝」とも。唐僧鑑真(がんじん)の伝記。1巻。淡海三船(おうみのみふね)撰。鑑真の従僧思託(したく)の「大和上伝」(3巻,逸書)をもとにして779年(宝亀10)成立。唐での鑑真の経歴と名声,伝戒師の招請をうけ,5回も渡航に失敗し,みずから盲目となりながら12年後にようやく来日できた経緯,聖武太上天皇以下への授戒と唐招提寺建立など,没するまでを記し,最後に追悼詩を添える。鑑真に関する最も基本的な史料であり,遣唐使,仏教制度史,さらには唐代南方地域の風俗などを知るための好史料で,初期の長編漢文伝として文学史的にも価値が高い。高山寺本は重文。「寧楽遺文」「群書類従」所収。
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