改訂新版 世界大百科事典 「善意悪意」の意味・わかりやすい解説
善意・悪意 (ぜんいあくい)
法律用語としては,ある事情を知らないことを善意,知っていることを悪意という。倫理的な意味での善悪という要素は含まれていない。善意者は保護され,その責任を軽減されるのが私法上の一般原則である。たとえば,(1)AとBとが通謀してなした虚偽の意思表示は無効であるが,その無効はこれをもって〈善意ノ第三者〉(A・B間の取引が虚偽表示であることを知らない第三者)Cに対抗することができないとされる場合(民法94条。虚偽表示)や,(2)不当利得の返還の範囲について,悪意の受益者(法律上原因なきことを知りながら受益をした者)がその受けた利益に利息を付して返還し,かつ損害があればその賠償の責に任ずる(704条)とされているのに対し,善意の受益者は,その利益の存する限度においてこれを返還すれば足りるとされる場合(703条)などがその例である。また,一般に,ある事情の存否について疑いをいだいただけでは知っているとはいえず,悪意にならないと解されている。ただし,占有について善意・悪意を区別する場合,その善意とは,単にある事情を知らないというにとどまらず,自己に占有を正当化する権利(本権)ありと確信することを意味するといわれる。したがって,本権の存否に疑いをいだいている場合には,悪意占有となると解されている。
なお,例外的に,善意・悪意に倫理的な意味がこめられ,他人を害する意思をもって悪意とされる場合もあることに注意すべきである。裁判上の離婚原因である〈悪意の遺棄〉(770条1項2号)の悪意がそれである(814条1項1号も同じ)。
執筆者:平林 勝政
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報