債権者からの強制執行を免れることなどを目的として,ある者(表意者という)が,相手方と通謀して,真意でないことを承知のうえで意思表示することをいう。たとえば,夫が所有する不動産を妻に贈与する意思がないのに,妻と合意のうえで,贈与したことにして夫から妻へ移転登記をする場合などである。また,たとえば,冗談でAがBに100万円を贈与するというように,表意者が,相手方と通謀することなく,真意でないことを承知のうえで意思表示をすることも広い意味で虚偽表示と呼ぶことがある。そこで両者を区別するために,相手方と通謀している場合を通謀虚偽表示といい,相手方と通謀していない場合を心裡(しんり)留保という。ローマ法では契約について,当初,要式性を重視していたが,そこでは外に現れた行為についてのみ判断されるので,虚偽表示を考える余地はなかった。そして2世紀ごろから,当事者の意思を考慮するようになって,虚偽表示(simulatio)による契約は無効とされるようになり,これが各国の立法に受け継がれている。しかし,その考え方には多少の差異がある。虚偽表示の場合には,外に現れた行為(前述の例では,夫から妻へ贈与すること)の背後には,当事者間の隠れた意図(いずれ,妻から夫へ登記を戻すこと)があるのが通例である。日本民法では,外形行為に着目し,虚偽表示は当事者間では無効である(民法94条1項)が,善意(その事実を知らない)の第三者には有効であるのと同じに扱われる(同2項)。反対に,フランス民法では,裏側の意図に着目し,隠匿行為は当事者間でのみ効力を有し,第三者に対しては効果を有しないとしている。虚偽表示の制度は,外観を信頼した第三者を保護することを目的とするものである。そこで,最近では,子が父に無断で子名義に移転登記したことを父が知りながら放置していた場合のように,通謀してはいないが,虚偽の外観につき多少の帰責性があるときには,善意の第三者に無効を主張できない旨を定めた94条2項を類推適用し,第三者を保護している。
なお,民法上の用法とは別に,特許などの工業所有権がない物にあるような表示をすることを虚偽表示といい,そのほか,原産地詐称のことを指す場合もある。
→仮装行為
執筆者:野村 豊弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
相手方と通謀して内心の意思と合致しない意思(効果意思という)を表示すること。通謀虚偽表示ともいう。
[編集部]
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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