嗚呼(読み)アア

デジタル大辞泉 「嗚呼」の意味・読み・例文・類語

ああ【嗚呼/×噫】

[感]
物事に深く感じたり驚いたりした気持ちを直接表す語。「―、わが故郷の山々よ」
呼びかけに用いる語。「―君、君」
同意したり肯定したりする応答の語。「―、わかったよ」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「嗚呼」の意味・読み・例文・類語

ああ【嗚呼】

  1. 〘 感動詞 〙
  2. 勝ち誇って笑うときに発する声。あざ笑う声。→ああしやをああしやごしや
    1. [初出の実例]「阿々 私記曰咲声也」(出典:釈日本紀(1274‐1301)二三)
  3. ものごとに感じて、驚き、悲しみ、喜び、疑問などを表わすことば。
    1. [初出の実例]「嗟乎(アア)、吾が祖(みおや)は天神(あまつかみ)」(出典:日本書紀(720)神武即位前(北野本訓))
    2. 「唉(アア)もう何を為るのも否(いや)だ」(出典:多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前)
  4. 相手に不承知・不服であることを示す返事のことば。多く、狂言で用いる。承知した場合には「おお」「はあ」などと言う。
    1. [初出の実例]「『何の役に立ぬやつの。すっこんで居おろ』『アア』」(出典:虎寛本狂言・縄綯(室町末‐近世初))
  5. 相手に呼び掛けるときのことば。
    1. [初出の実例]「ああ暫く、あわてて事を為損ずな」(出典:光悦本謡曲・安宅(1516頃))
  6. 相手の話し掛けに対して同意して答えるときのことば。
    1. [初出の実例]「人が物を問ふにと云たれば、ああそれもようさうと、かう云たぞ」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)四)
    2. 「『一人でよく眠れた?』『ああ』」(出典:雪国(1935‐47)〈川端康成〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「嗚呼」の意味・わかりやすい解説

嗚呼/烏滸 (おこ)

滸,,尾籠などとも漢字をあてる。古くはヲコ,ウコとも。単純にいえば,おろか,愚鈍の意味だが,人を笑わせようとするような行為や,常軌を逸した行為などをもさす,多義的な語で,日本における道化的精神をさぐるのにきわめて重要な語といえる。語源はヲカシと同根かともされるが未詳。記紀歌謡に〈我が心しぞ いやをこにして 今ぞくやしき〉とあるのが古い用例。《三代実録》元慶4年(880)7月29日の条に〈右近衛内蔵冨継,長尾米継,伎に散楽を善くし,人をして大咲(笑)せしむ,いはゆる滸人これに近し〉とあって,散楽を演ずる人物がオコな人間と考えられていたことがわかる。この滸人を《後漢書》などにいう(おこ)の国(南蛮の愚かな風俗をした国)の人とする説が古来行われているが,ここはオコな人と考えてよい。散楽は当時行われた雑芸で曲芸軽業,滑稽な物真似侏儒舞ひきひとまい),傀儡子(くぐつ),滑稽な対話芸などがあったが,〈今日の事散楽の如し〉(《小右記》)などのように滑稽の代表のようにも考えられ,さらに猿楽(さるがく)/(さるごう)ともいわれて,滑稽なことを意味するふつうのことばともなった。猿楽と書かれるようになるには,大嘗祭・鎮魂祭の神楽の舞などに奉仕した猿女(さるめ)の故事と混交したためと考えられるが,それは散楽のようなオコな行為が古代の芸能・祭式にともなっていたためと思われる。このようなオコの神話的表現に,スサノオノミコトの行為や海幸・山幸説話などがあるとみることもできる。平安時代には宮廷では近衛の官人が散楽を相撲・競馬の節会や神楽・淵酔などの余興として行ったが,こういった伝統のためか,宮廷においてもオコなことが盛んに行われたらしい。《宇治拾遺物語》に,陪従(べいじゆう)行綱が,内侍所の御神楽の夜,袴を股までかき上げ,細脛(ほそはぎ)をあらわにして,寒そうに震えながら,〈よりによりに夜のふけて,さりにさりに寒きに,ふりちうふぐりをありちうあぶらん〉とはやしながら,庭火の周囲を10回かけまわったと伝える。散楽は民間に入って,寺社に属し,祭礼の余興にも行われたが,その様は《新猿楽記》にみえ,それを評して〈すべて猿楽の態,嗚呼の詞は,腸(はらわた)を断ち頤(おとがい)を解かずといふことなし〉といっている。また《明衡往来(雲州消息)》には稲荷祭の余興として行われた性的な猿楽もみえる。

 このようなオコのことに対する興味は文学のほうにもおこって,色好みをオコとしてとらえた《平中物語》などがあらわれ,《今昔物語集》巻二十八には44話のオコバナシが収められるようになる。このオコバナシは《万葉集》巻三などにみえる誣(しい)物語に系統をひき,志斐連(しいのむらじ)などが職掌としたとする説もある。文学におけるこのような傾向は一方では俳諧歌,連歌,俳諧にも受けつがれ,説話文学でも《古今著聞集》興言利口などにもオコバナシが集められるようになる。またオコなわざは古来から日本の演劇にともなっていたカケアイから来たもので,神楽の人長(にんぢよう)に対する才男(さいのお),田楽のモドキ役,翁に対する黒尉,狂言の大名に対する太郎冠者などの行為にオコをみる説もある。また,《義経記》では武蔵坊弁慶がオコの者と評される部分がたびたびあって,室町時代には何がオコと考えられたかがよくわかる。このオコの者と呼ばれる武蔵坊弁慶の行為を整理してみると《日葡辞書》に記されたオコの者の定義にそのままあてはまるようである。《日葡辞書》のオコの者には〈気楽な,屈託のない,常軌を逸した,行儀の悪い,横柄な人〉と解説されている。オコが道化的な意味を明確にする一方で,このような含意をともなわない愚鈍を意味する〈バカ〉という語が新しく作り出された。バカの用例としては《神道集》《太平記》にあるものが早い例である。江戸時代になると道化的なオコが捨てられてかえりみられず,オコもバカの意の古語のように感じられたらしい。
道化
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普及版 字通 「嗚呼」の読み・字形・画数・意味

【嗚呼】ああ

ああ。感嘆・嘆息の声。〔礼記、檀弓上〕魯の哀、孔子に誄(るい)して曰く、天、耆老をさず、予が位を相(たす)くるもの(な)し。嗚呼哀しい哉(かな)、尼と。

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