がんの診療・調査・研究等を行う、厚生労働省所管の国立研究開発法人(独立行政法人)。英語名はNational Cancer Center、略称はNCC。「高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づく、医療に関する六つのナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)の一つである。1962年(昭和37)に「国立がんセンター」として開設。2010年(平成22)独立行政法人に移行し、現在の名称になり、さらに2015年4月、国立研究開発法人に移行した。2007年施行の「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)に掲げられた「がん医療の全国均てん(霑)化」を図る中心機関でもある。所在地は中央病院と研究所が東京都中央区築地(つきじ)5-1-1、東病院は千葉県柏(かしわ)市柏の葉6-5-1。
東京都中央区築地の旧海軍軍医学校の建物を改装し、病院と研究所が設けられた。初代総長は元日本医師会会長で当時の日本医学会会長の田宮猛雄(たみやたけお)(1889―1963)、病院長は大阪大学教授の外科医・久留勝(くるまさる)、研究所長は当時の癌(がん)研究会癌研究所(現、がん研究会がん研究所)所長の中原和郎(なかはらわろう)(1896―1976)と、日本医師会、日本癌学会など国をあげての体制となった。国立がん研究センターは、特定の医療分野が専門の国立高度専門医療研究センター第1号として、現在まで、がん治療や研究の拠点となっている。
1992年(平成4)千葉県柏市に東病院が新築され、1998年には築地の中央病院、研究所も新築された。診療はとくに外科手術に強く、肝臓がん、肺がんなどの新手術法を開発、現在も、中央病院の胃・大腸・肺・泌尿器がんなどの手術には定評がある。さらには内視鏡治療、東病院の頭頚(とうけい)部がん手術、陽子線治療などで、全国のトップクラスの実績を出している。治療後のすべてのがんの平均5年生存率はすでに1980年代に50%を超えた。東病院は国立初の緩和ケア病棟(ホスピス)をもつ。
一方、研究所は、1984年度(昭和59)からの国の「対がん10か年総合戦略事業」、1994年度から延長された第2次戦略、2004年度からの第3次戦略の中核拠点でもあった(~2013年度)。1966年に杉村隆(すぎむらたかし)(1926―2020)がイヌに初めて胃がんを起こすことに成功、焼け焦げの発がん物質の発見でも知られた。また、たばこ研究で知られる平山雄(ひらやまたけし)(1923―1995)は、世界で初めて間接喫煙の害を証明した。河内卓(かわちたかし)(1929―2001)らは国民を啓発するため「がん予防12か条」を考案した。その後、がん遺伝子や発がん機構の解明、創薬研究など、いっそう研究内容も精密になっている。
センターには当初から病院と研究所を助ける事務部門として運営部が設けられた。運営部は厚生省人事で、しだいに官僚主導が強まり、病院新築の赤字による職員の待遇悪化などで業績も低迷した。2010年から国立高度専門医療センターが独立法人化され、初代理事長に山形大学の嘉山孝正(かやまたかまさ)(1950― )が就任、従来の慣行を排除し、診療、待遇、連携などの改革を実施した。2代目理事長の堀田知光(ほったともみつ)(1944― )がさらなる改善に努めた。
現在のセンターは2病院1研究所は変わらないが、専門部署として、先端医療開発センター、社会と健康研究センター、がん対策情報センターを設置している。がん対策情報センターは日本のがん対策に必要な情報を整備し、全国のがん診療連携拠点病院と協力して教育研修、情報の普及などに努めている。「がん医療の全国均てん化」を図るために必要な情報を収集する役割もある。
[田辺 功 2017年11月17日]
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