国語問題(読み)コクゴモンダイ

デジタル大辞泉 「国語問題」の意味・読み・例文・類語

こくご‐もんだい【国語問題】

ある国民の使用言語の種類・方言差・使用文字などに何らかの改善に値する点があると考えられる場合の問題。言語問題
日本において、漢字の制限・節減、その字体音訓の整理、仮名遣い送り仮名ローマ字使用などが問題となる場合のその問題。国語国字問題。→国字問題

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精選版 日本国語大辞典 「国語問題」の意味・読み・例文・類語

こくご‐もんだい【国語問題】

  1. 〘 名詞 〙 国語の発音や用字・用法などを、どのように整理し改善し、正書法をどうすべきかという問題。特に、口語と文語の文体の統一、仮名遣いの改革、漢字の整理制限と音訓の読み方などが中心であるが、広く国字問題・ローマ字問題なども含める。〔国語のため(1895)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国語問題」の意味・わかりやすい解説

国語問題
こくごもんだい

一国の使用言語について、なんらかの改良を加えなくてはならないとして提示される問題と解してよいが、狭義には、わが国の使用言語である日本語について、とくにその書きことば・使用文字が抱えている諸問題をどう解決してゆくかの問題をさす。後者の意味では「国語国字問題」ともいわれ、そのほうが実体を示している。すなわち、一国内で2種以上の公用語・生活語があったり、方言差・社会階層差が大きすぎたりする場合にも国語問題といってよいが、これは一般に某国の言語問題といわれ、国語問題といえば、もっぱら漢字仮名交じり表記を本体としている、独自な日本語の書きことばをどのように改良してゆくかの問題をさす。

[林 巨樹]

国語改良の動き

日本語自体、古くは著しく中国語の影響を受け、近くは西欧諸語の影響を受け、語彙(ごい)の面などでも複雑な形態を示す言語であるが、なかんずく文字については、漢字によって自国語を書き始め、字音と和訓との併用によって、平仮名片仮名の2種の音節文字をつくり、これらを混用する漢字仮名交じり文を通用体とするに至って、複雑な形態を示した。また、12世紀以降、文章語は口頭語と分かれ、いわゆる言文二途の形態を示していた。

 これを改良しなくてはならぬという意見は、18世紀以降、欧文に触れることのできた学者の間にみられた。たとえば新井白石(あらいはくせき)は『西洋紀聞(せいようきぶん)』で「(西欧では)其(その)字母、僅(わずか)に二十余字、一切(いっさい)の音を貫けり」と特記している。1866年(慶応2)には前島来輔(らいすけ)(密(ひそか))「漢字御廃止之儀」のような建白書となって現れた。また明治初年以降は、官民ともに(1)封建制下に助長された方言分化に対し、標準語を確立すること、(2)口頭語から離れた多様な文章語を廃して、言文一致の文体をつくること、(3)漢字中心の表記を改めて、仮名またはローマ字あるいは表音の新文字による表記を企図すること、などの方向で国語改良を図ろうとした。(1)と(2)とは、官における研究、1900年(明治33)以降の国定教科書の編纂(へんさん)や、民における通俗文体の採用、二葉亭四迷(ふたばていしめい)ら文学者のくふう、言文一致会(1900~1910)の活動などによって歩を進めた。しかし(3)の文字改良については帰趨(きすう)すこぶるむずかしく、官の国語調査委員会(1902~1913)、臨時国語調査会(1921~1934)、臨時ローマ字調査会(1930~1936)などが、(1)漢字節約ないし制限、(2)仮名遣い問題(歴史的仮名遣いに対して表音式仮名遣いを採用するかどうか)、(3)送り仮名問題、(4)ローマ字表記の問題を議し、民には「かなのくわい」(1883創立)、「羅馬字(ローマじ)会」(1884創立)などもあって活動を続けたけれども、決するに至らなかった。現在のカナモジカイ、日本ローマ字会は民の流れをくむ。

[林 巨樹]

国語審議会による展開

国語問題に画期的であったのは、1946年(昭和21)の国語審議会の建議を政府がとり、内閣告示・同訓令の形で発表した「当用漢字表」「現代かなづかい」であった。国語審議会は1934年(昭和9)文部大臣諮問機関として設置され、国語の改善、国語教育の振興、ローマ字に関する事項を調査・審議する機関であった。同審議会は、第二次世界大戦終了後、多くの臨時委員を入れて、前述の国語調査会以来の懸案事項の解決を図ろうとした。その意図は、従来提示してきた「常用漢字表」(1923。1962字、うち略字154字)、「標準漢字表」(1942。2528字)、「仮名遣改定案」(1924)、「新字音仮名遣表」(1942)などを踏まえて、現代語を書き表すには、(1)さしあたり1850字の漢字による、字体も簡易に改める、(2)現代語音に基づく表音を旨とする仮名遣いによる、という方向で一挙に解決しようとしたものであった。

 この両案は新聞が採用し、出版界の大部分が従うほか、小・中・高等学校の教科書にも適用された。「当用漢字音訓表」(1948)、「当用漢字字体表」(1949)が続き、「送りがなのつけ方」(1959)も公布され、歩を進めたが、1960年代から批判も高まり、音訓表あるいは「送り仮名の付け方」の改定を経て、1981年には「常用漢字表」(1945字の字種・音訓などを漢字使用の目安として提示する)の公布となった。以後、1986年の「現代仮名遣い」(従来の「現代かなづかい」を若干整理したもの)および1991年(平成3)の「外来語の表記」(カタカナによる外来語、外国の地名・人名等の表記のよりどころを示したもの、ヂ・ヅ・ヰ・ヱ等を排除するが、一方ティ・ディ・フィ・フェ・ヴァ等を特定の外来語の表記に用いる文字として認める)を答申し、いずれも内閣告示・訓令として実施された。以上、国語審議会の動きを中心に述べたが、同審議会には報道・出版・教育等の各界から委員が出ており、国語問題は第二次世界大戦後の規制的な施策を1966年以降「目安」ないし「よりどころ」とする方向で審議し直し、新聞・雑誌・一般出版物等の表記もいちおうの安定を示し、国語問題は平穏に展開した。

 国語審議会も、国語表記に関する面での戦後施策の見直しはいちおう終わったものと認め、文字・表記以外の面をも審議の対象とすることとし、1993年には「現代の国語をめぐる諸問題について」という報告を当時の文部大臣に提出、ついで1995年には「新しい時代に応じた国語施策について」を経過報告の形で発表した。以降、国語問題は、情報化・国際化が急速に進み、情報機器が飛躍的に進歩・精密化してゆくのに応じて、文字・表記の枠にとどまらず、広く日本語の音声・音韻、語彙、語法、表現、方言にまで枠を拡大してゆくに至った。

 この間、国民の姓名の表記については(法務省所轄)、(1)人名用漢字(常用漢字表外の、新しく生まれた子の名に用いてよい漢字)の数を284字に増やす(1990。のち追加と削除が行われ、2015年1月時点で862字)、(2)戸籍のコンピュータ収納を目ざし、その際、新戸籍をつくったり、本籍地を変更したりする場合には、誤字・俗字を戸籍係の職権で正字に改めることができる(1990)などの法令改正が行われた。

[林 巨樹]

現代の国語問題

以下、国語審議会で取り上げられた事柄を中心に、1990年代以降、新聞・雑誌、マスコミ一般で話題となっている国語問題と思われるものを列挙する。

〔1〕「常用漢字表」「現代仮名遣い」などによって運用される現代日本語の表記はいちおうの安定を得たかにみえるが、(1)漢字の制限による、いわゆる「交ぜ書き」語、すなわち「ばん回」「ら致」「補てん」「語い」などをどう処置するか。(2)常用漢字の簡易字体を是とするも、その簡易方法を、常用漢字以外の、いわゆる表外字に、どの程度及ぼすか。たとえば、しんにゅう(しんにょう)、そうこう(くさかんむり)の簡易字体を一般に及ぼすほか、鴎(鷗)・祷(禱)・涜(瀆)など22字を認めようとする。(3)現代仮名遣いは現代の口語文の表記に用い、古文・文語文には歴史的仮名遣いを用いるたてまえであるが、現代文と文語文との境目はすこぶる微妙である。いかにあるべきか。

〔2〕(1)縦書き横書き問題。20世紀なかばまで右縦書きが主体であった日本語文が、第二次世界大戦後、公用文の左横書き推進、「国語」「漢文」以外の教科書の横書き化などにより、多く左横書きを取り入れるようになった。アラビア数字を縦書き文中に用いるのも新傾向である。この混用状態は是か非か。(2)ローマ字により左横書きにする日本人の姓名は、従来、欧米型のTaro Yamadaを是としてきたが、縦書きのときと同じくYamada Taroとするほうがよいのではないか。

〔3〕ことば遣いについては、(1)いわゆる敬語法を敬意表現としてとらえ、従来の尊敬・謙譲・ていねいの別にとらわれず、相手への心配りを示す言い方一般に及んで検討してゆく。(2)いわゆる皇室敬語については、なお検討を要する。(3)従来の「見られる」「来られる」などの言い方を「見れる」「来れる」という、いわゆる「ら抜きことば」は是か非か。(4)「~でえ」のような無用のしり上がりイントネーション、「~とか」のようなぼかした語法などをどうするか。(5)「チョー(超)きれい」のような接頭語の用法をどうするか。

〔4〕英米語を主流とする外国語・外来語の過度の摂取、「CD」「IT」「NY」などのローマ字頭字法略語の日本語文への侵入などの問題をどうするか。

〔5〕その他。(1)近代化のなかで、方言は衰退しつつある。共通語・標準語の育成とともに、各地方の方言の保存・育成が求められるのではないか。(2)国語教育においても、従来の書きことば中心から、話しことばに重点をおくことが求められる。討論(ディベート)、談話(スピーチ)の能力育成が求められる。

 国語審議会は2001年(平成13)1月以降、文部科学省に新設された文化審議会国語分科会に引き継がれたが、2000年12月に国語問題に関する最終の答申として、(1)従来の格式ばった敬語にかわる「敬意表現」について、(2)常用漢字以外の表外字を印刷する場合の目安を示す「印刷標準字体」について、(3)「国際化のなかでの日本語のあり方」について、の3委員会の答申を示した。なかんずく(2)の表外漢字の印刷標準字体1022字を示し、簡易慣用字体として鴎、祷など22字を認める(涜は認めない)としたこと、(3)の日本人の姓名は「姓―名」の順とするのが望ましいとしたこと、は注目してよいであろう。

[林 巨樹]

『文部省教科書局国語課編・刊『国語調査沿革資料』(1949)』『久松潜一・西尾実監修『国語国字教育史料総覧』(1969・国語教育研究会)』『吉田澄夫・井之口有一編『明治以降国語問題諸案集成』上下(1972、1973・風間書房)』『波多野完治他編『増補版教育学全集5 言語と思考』(1975・小学館)』『渡部晋太郎著『国語国字の根本問題』(1995・新風書房)』『倉島長正著『「国語」と「国語辞典」の時代』上下(1997・小学館)』『平井昌夫著、安田敏朗解説『国語国字問題の歴史』復刻版(1998・三元社)』『『国語審議会報告書』1~21(1952~98・文部省)』

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