侵食によって生ずる地形変化の一連の過程をいう。地形は、火山の生成や海底の隆起などによって原地形(げんちけい)が新たに生じ、その瞬間から外的営力(雨、風、温度の昇降、凍結、融解、流水、波浪など)によっていろいろな次地形(じちけい)をつくり、最後には起伏の小さい準平原(じゅんへいげん)の終地形(しゅうちけい)となる。この過程が地形輪廻で、侵食輪廻あるいは地理的輪廻ともいう。また、侵食輪廻は一般に河川による侵食の変化が広く行われるので、河食による侵食の過程を正規輪廻ともいう。これはアメリカの地形学者W・M・デービスが20世紀の初頭に提唱した学説で、ダーウィンの生物進化論の影響を受けて、地形の進化を生物の進化に例え、地形の変化は原地形から幼年期、壮年期、老年期を経て終地形の段階を経ると説明している。
幼年期の地形は原地形の原面が広く残存し、河道は滝や早瀬などがあるという特徴をもっている。壮年期地形では、侵食が進んで谷幅が広くなり、とくに満壮年期になると、川と川の間にある河間地は鋸歯(きょし)状の山形となって起伏量が最大となる。晩壮年期になると、山頂は丸みを帯び従順山形となる。滝や早瀬は消滅し、河道は一般に平衡河川の状態に近づき、川はいっそう蛇行して谷幅を広げる。老年期に入ると川は自由に蛇行してさらに谷幅を広げ、河間地は低下して波浪状の地形となり海面付近まで侵食されていき、準平原の終地形となって、ここで一つの輪廻を完成する。しかしこの一連の地形変化の過程は、地盤が静止しているかあるいは海面の高度(侵食基準面)が一定であるという仮定のもとに成立し、もし輪廻の途中で地盤が隆起したり海面が低下すると、侵食が復活して新たに輪廻が始まる。この隆起あるいは海面の低下は地形輪廻を一時的に中断するので、これを輪廻の中断という。また、準平原の状態になってもとくに硬岩の部分、あるいは侵食基準面からもっとも遠い部分は侵食から取り残されて突起し、いわゆる残丘(ざんきゅう)をつくる。一つの輪廻の途中で数回の輪廻の中断がおこり、これが地形に現れている状態を多輪廻性の地形という。もっとも普遍的にみられる河食輪廻のほか、氷食輪廻、乾燥輪廻、海食輪廻、カルスト輪廻などがある。
地形輪廻の考え方は一つの仮説で、これを地形輪廻説ともいう。すなわち、地球上に現存する各種の地形を、時系列のうえに配列して組み立てた仮説である。デービスは複雑な世界の各種の地形をこの説によって系統的に説明し、理解を容易にし、また彼の弟子が多く、この説は世界的に普及した。したがって、地形輪廻説はとくに20世紀前半の地形学の進歩に著しく貢献したので、その功績を正しく評価すべきである。しかし、地形の形成は内的営力と外的営力とが同時に作用して行われることを強調したドイツの地形学者W・ペンクと激しく対立したこと、さらに地形変化がその地域の気候と密接な関係のもとに行われるとする近年の気候地形学の発達によっても、この説を批判するものも少なくない。
[市川正巳]
『W・M・デービス著、水山高幸・守田優訳『地形の説明的記載』(1969・大明堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…〈時期〉とは時間の経過とともに地形は後述するように幼年期,壮年期,老年期として名付けられるような特徴のある地形を連続的に発達させる。この〈時期〉の概念が地形輪廻説におけるデービスの考え方の根幹であった。 デービスの成因論的地形学に対して,ドイツの地形学者W.ペンクは,地形は地盤運動(内作用)に対して外作用が加わって生ずるから,外作用による変化を取り除いて考えれば地形から地盤運動の性質がもとめられるはずであるとする地形分析の立場を唱えた。…
※「地形輪廻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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