海水に月や太陽の引力が作用し,その起潮力によって海面が昇降する現象は,海洋潮汐あるいは単に潮汐として人々によく知られている。起潮力は海水だけでなく地球の固体部分にも同様に作用するので,それによってわずかではあるが地球自体も変形を繰り返している。この現象が地球潮汐である。変形に伴って地殻が伸縮し,重力値が変化し,鉛直線の向きが変わるなど,さまざまな変化現象が生じる。一般にはこれらの周期的変化現象のことをすべて地球潮汐といっている。
地球潮汐の大きさは時刻,場所によって異なるが,最大の場合でも,地表の昇降はせいぜい数十cm,重力値の振幅は0.002mm/s2内外,鉛直線の向きの変化は0.04秒程度,地殻の伸縮も10⁻7の桁という微小なものである。これらの小さな変化を検出するには,高精度の測定器を静かな環境に置いて測定しなければならず,高度の技術を必要とする。通常,地球潮汐の観測は,地下の観測坑内に設置した伸縮計や傾斜計,振動の少ない場所に置いた重力計などによって行われることが多い。月や太陽の起潮力はさまざまな周期成分を含むので,それにしたがって生じる地球潮汐もたくさんの周期成分に分けられ,それぞれの成分を分潮という。主要な分潮には,月によるM2潮(周期が12時間52分),O1潮(25時間49分),月と太陽の両方によるK1潮(23時間56分),太陽によるS2潮(12時間)などがあり,そのほか長周期のもの,振幅の小さいものなど非常に多くの分潮がある。
地球潮汐の観測は,地球の弾性的および粘性的性質を知るうえで重要な地球物理学的意味をもち,現在は世界各地でその観測が実施されている。日本では理論的研究も観測も盛んである。現実に観測されるデータには海洋潮汐の影響が重なっているため,最近の研究は,海洋潮汐の影響を除去すること,また地球潮汐に見いだされる地域差を説明することなどに主眼が置かれている。
執筆者:長沢 工
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
天体引力によっておこる地球の変化現象。月や太陽の引力により周期的に海面が上下する海の潮汐現象はよく知られている。これらの引力は地球の固体部分にも同様に作用して、地球の変形、鉛直線の方向変化、重力値の変化などのさまざまな周期的変化を引き起こしている。このように、月、太陽の引力によって地球の固体部分に生じる変化現象のことを総称して地球潮汐という。地球潮汐は数多くの周期成分を含んでいるが、主要なものに、月によるM2潮(周期12時間25分)、O1潮(25時間49分)、月、太陽両方によるK1潮(23時間56分)、太陽によるS2潮(12時間)などがある。
地球潮汐の大きさは場所によって異なるが、たとえば、変形による地表の上下は最大でも50センチメートル内外、鉛直線の方向変化は0.04秒程度、重力値の変化は0.002ミリメートル毎秒毎秒といった量で、いずれも本来の大きさの1000万分の1の桁(けた)の、ごくわずかな大きさのものである。そのため、これらの変化は、きわめて精密な測定器を、擾乱(じょうらん)の小さい場所に置かない限り測定できない。通常は、地下の観測坑に設置した高感度の伸縮計、傾斜計、振動の少ない場所に置いた重力計などで地球潮汐の観測が行われる。
地球潮汐を観測し、地球の変形のようすを知ることは、地球の弾性的性質を知るために非常に重要なことで、この種の観測は日本を含めた世界各地で実施されている。
[長沢 工]
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(斎藤靖二 神奈川県立生命の星・地球博物館館長 / 2007年)
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