二宮尊徳の報徳主義を実践するための結社。報徳とは《論語》における〈以徳報徳〉に由来するもので,天・地・人三才の徳に報いるに,実践的徳行をもってすることを意味する。尊徳は1820年(文政3)小田原領において下級士族および一般民衆の救済のため五常講を設けているが,この経験をもとに,43年(天保14)小田原町民らの要請により基金160両を与え小田原仕法組合を創設した。これが小田原報徳社の発業であり,報徳社の最初とされている。報徳思想における最も重要な実践倫理は,〈分度〉と〈推譲〉という考え方のなかに示されている。分度とは分に従って度を立てることを意味し,本来身分上の制約に関する言葉であるが,尊徳においては,自己の財力に応じて予算を立て,合理的な生活設計を行っていくという面に重点がおかれている。推譲とは今日のものを明日に譲り,今年のものを来年に譲り,そのうえ子孫に譲り,他人に譲るという行為を意味する。報徳仕法とは,前述のような報徳の教えを実践することを意味し,尊徳が難村立直しの経験とその過程で自得した生活技術を基礎に,これを社会に適用しようとする一種の農村計画であった。
幕末期における報徳社の活動は,時勢に適合するところが多く,東海地方を中心に相模,甲斐,伊勢,河内など各地の農村に深く浸透するにいたったが,とくに遠州地方では,1847年(弘化4)安居院(あぐい)義道が報徳仕法に基づき一社を組織したのを契機に,その後岡田佐平治ら同地方の地主層の指導のもとに,漸次その組織を拡大していった。尊徳には多くの門人が存したが,著名な人物として富田高慶,斎藤高行,福住正兄,岡田良一郎(佐平治の子)らがあげられる。彼らは明治期に各地において報徳社運動を台頭せしめる推進力としての役割を果たした。とくに75年岡田佐平治,良一郎らによって設立された遠江国報徳社は,1911年大日本報徳社と改称され,報徳社運動の元締めとして大きな影響を及ぼしてきた。
→報徳会
執筆者:伝田 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
二宮尊徳(にのみやそんとく)が創唱した報徳の教えに基づく結社組織。1843年(天保14)設立の常陸(ひたち)国(茨城県)下館(しもだて)藩の報徳信友講と相模(さがみ)国(神奈川県)小田原(おだわら)仕法(しほう)組合が最初とされている。報徳思想は、勤労、分度、推譲を徳行の原則とし、個人や社会の衰貧復興計画としての報徳仕法を行うために報徳社が組織された。幕末期には難村復旧、家政立て直しのため相模、下野(しもつけ)(栃木県)、遠江(とおとうみ)(静岡県)などに普及したが、明治以降は静岡県掛川(かけがわ)の岡田佐平治(さへいじ)・良一郎(りょういちろう)・良平(りょうへい)3代が指導した遠江国報徳社(1875年設立、1911年大日本報徳社と改称)を中心に静岡県下で発展した。また、ほかに小田原報徳社、駿河(するが)東報徳社、報徳報本社、報徳遠譲社、駿河国西報徳社、静岡報徳社、三河報徳社などがあった。これらは設立事情の差異により生じた分派で、1924~40年(大正13~昭和15)に合同、大日本報徳社の傘下に入った。報徳社は、経済と道徳との調和を説いて協同精神を強調するとともに、報徳金の積立てと運用による無利・低利の貸付け、殖産興業、農事改良、風俗教育などを行い成果をあげた。一方、政府は地方改良運動、民力涵養(かんよう)運動、国民更生運動、経済更生運動などの際、国民教化と地方自治政策の一手段として報徳社を指導、奨励したため、報徳運動は全国的に広まった。第二次世界大戦後、報徳社組織は後退しているが、1977年(昭和52)の大日本報徳社所属社は全国で208社、社員数9040人、報徳金は29億2000万円となっている。なおこのほかにも各種の報徳団体がある。
[海野福寿]
『八木繁樹著『報徳運動100年のあゆみ』(1980・龍渓書舎)』
二宮尊徳が創唱した報徳思想にもとづき,江戸後期~近代に結成された結社。社員が余剰を推譲(すいじょう)して基金を設け,互助的金融および貧民救済・殖産興業・教育などの社会事業を行った。1843年(天保14)に常陸国下館(しもだて)藩士の間に結成された信友講と同年相模国小田原町民が結成した小田原仕法組合を嚆矢とする。その後遠江国倉真(くらみ)村(現,静岡県掛川市)牛岡組報徳社が結成されるなど,近代化の過程で遠江国を中心に全国的に報徳社が結成された。それぞれが尊徳の門弟ごとに派をなし,各派が本社を設立して支社を統轄・指導していたが,1924年(大正13)大同団結して大日本報徳社が成立。本社は静岡県掛川町(現,掛川市)におかれ今日に及ぶ。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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