墨付(読み)すみつき

精選版 日本国語大辞典 「墨付」の意味・読み・例文・類語

すみ‐つき【墨付】

〘名〙
① 書いた墨のつきぐあい。墨の色。筆の跡。筆跡
源氏(1001‐14頃)若紫「紫の紙に書い給へるすみつきの、いと殊なるを取りて見居給へり」
今昔(1120頃か)一九「鋳懸地(いかけぢ)に蒔(まき)たる硯の様も厳(いつく)しく、墨付なども世に不似(に)ざりければ」
文書。手紙。特に、自筆書状・文書・書籍など。
※高野山文書‐文祿四年(1595)八月二六日・僧深盛快盛連署状「興山上人黒(墨)付取候て可参候」
③ 中世・近世幕府・諸大名家が下付した公文書。文書の直接責任者そのほかの関係者が書判(かきはん)を墨書したことからいう。後に書判のかわりに印判(黒印朱印)を用いるようになって、それらの印判状をも墨付と呼ぶようになった。御(お)墨付。墨印。御判物。→御墨付
※籾井日記(1582頃)一「跡備は筒井順慶にて候〈略〉信長より毎度墨付をもろふて、人なげに思ふ」
④ (墨のついた紙の意) 典籍・文書等の実際に文字などの書かれている紙。ふつう、その枚数を「墨付〇枚(丁)」としるす。多くは、一六、七世紀以降、鑑定家によってしるされた。
※更級日記(1059頃)奥書「墨付九十六丁。但し外題共には九十七丁也」
顔色きげん。もてなし。
洒落本・初葉南志(1780)「お出なされましたとは云へど知らぬ顔故少し墨付がわるひを駕のもの見てとり」
口上を述べること。挨拶(あいさつ)をすること。また、その挨拶。
浄瑠璃妹背山婦女庭訓(1771)四「互に味な墨付(スミつ)きを、子太郎がひっ取って」
⑦ 連歌・連句の座で、執筆(しゅひつ)が句を受け取り懐紙に書きつけるとその句が定まる、という規則。その後は句の訂正返却には応じてもらえない。〔俳諧・誹諧名目抄(1759)〕

すみ‐つけ【墨付】

〘名〙
婚礼のとき、または小正月に新夫婦に墨を塗る儀式。魔除けや祝いの意味がある。墨塗り。〔俳諧・俳諧二見貝(1780)〕
② 互いに相手の顔に墨をつけあうこと。また、その遊び。①が遊びに転じたもの。墨塗り。〔諸国風俗問状答(19C前)〕
③ 灸をすえる所に墨でしるしをつけること。灸点をつけること。
※言経卿記‐天正一七年(1589)五月一〇日「又灸経二巻借給了。又予十一之推灸治の墨付を頼入了」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「墨付」の意味・わかりやすい解説

墨付
すみつき

書いた墨のつきぐあい、墨のついた紙、文書など多くの意味をもつが、古文書学上でいえば、中・近世に幕府や諸大名家が下付した公文書をいう。文書の差出所に書判(かきはん)を墨書したことからいうが、一般には書判を据えた判物(はんもつ)のみならず、黒印や朱印を用いた印判状をも称した。所領給与、安堵(あんど)、課役免除など恒久的効力が期待される内容の文書をさすことが多い。

[橋本政宣]

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世界大百科事典(旧版)内の墨付の言及

【墨壺】より

…竹棒の両端を蓖(へら)および筆状にしたものを墨指(すみさし)(墨芯)といい,墨壺と一対として用いられる。墨糸で直線を引くことを墨掛(すみかけ),墨指で線引きしたり文字書きをすることを墨付(すみつけ)という。大工が工匠の魂として,指金とともに重要視する工具である。…

※「墨付」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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