判物(読み)ハンモツ

デジタル大辞泉 「判物」の意味・読み・例文・類語

はん‐もつ【判物】

室町時代以降、将軍・大名などが所領安堵あんどなどを行う際に花押を署して下達した文書。江戸時代には朱印状黒印状より権威のあるものとされた。御判物

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精選版 日本国語大辞典 「判物」の意味・読み・例文・類語

はん‐もつ【判物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 室町・戦国時代、将軍・武将または大名が花押(かおう)または自署と花押を記して出した文書。武家に対する知行の安堵(あんど)、宛行(あておこない)、その他重要な政治向きの命令を発するとき用いられた。特に、室町将軍の出したものは御判御教書とも称され、御教書の一種に数えられ重視された。御判(ごはん)。御判物。
    1. [初出の実例]「大原野勝持寺御判物以備州進之親元持参」(出典:親元日記‐寛正六年(1465)三月五日)
  3. 江戸時代、将軍の花押のある文書。朱印状、黒印状より重視され、たとえば、幕府が大名に所領を与える場合、一〇万石以上のときは御判物、一〇万石以下のときは朱印状を用いた。
    1. [初出の実例]「御判物 御朱印所持之面々は、御判物 御朱印に写を差添出之」(出典:御触書寛保集成‐一三・享保元年(1716)九月)
  4. 江戸時代、奉行の裏判のある目安(めやす)訴状)のこと。訴を起こした訴訟人(原告)が提出した目安の裏に、奉行が相手方被告)に所定の日に出頭すべき旨を記し署名捺印したもの。判物は訴訟人を通じ相手方に送達され、裁判開始の運びになった。
    1. [初出の実例]「御判物の儀は、墨附活等無御座候」(出典:地方落穂集(1763)一四)
  5. 印。印影はん
    1. [初出の実例]「謀書謀判致候もの〈略〉百姓連判有之口え白紙を継、判物有之紙にて書懸け」(出典:徳川禁令考‐後集・第三・巻二七・元文四年(1739)一〇月)

はんじ‐もの【判物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ある意味をそれとなく文字や絵などにして表わし、人に判じ当てさせるようにしたもの。
    1. [初出の実例]「絵馬かけてやいはふ御社 生出る千本松も判事物〈重直〉」(出典:俳諧・物種集(1678))
  3. はんじものうちわ(判物団扇)
    1. [初出の実例]「児女のもつ団扇(うちわ)に、はんじものと云あり」(出典:学談雑録(1716頃)上)
  4. 安永天明一七七二‐八九)の頃から江戸の市中で行なわれた願人坊主の物乞いの一種。朝方門口へ簡単な絵や文句を書いた紙片を投げ入れ、午後「今朝ほどの判じ物」と言いながら、金銭を乞い歩いた。
    1. [初出の実例]「一染年間願人、今朝判物(ハンジモノ)銭頻」(出典:狂詩・寝惚先生文集(1767)一・寄願人坊)
  5. ( から ) 意味、内容、実態などがあきらかでないもの。また、それについて、こうではないかと判断すること。
    1. [初出の実例]「ながれてきたレコードを耳へいれて、あれはショパンだなあ、と判じものをでもするように思い」(出典:後裔の街(1946‐47)〈金達寿〉二)

はん‐もの【判物】

  1. 〘 名詞 〙はんもつ(判物)

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改訂新版 世界大百科事典 「判物」の意味・わかりやすい解説

判物 (はんもつ)

中世,近世の武家文書に用いられる文書名の一つ。広義には室町時代より江戸時代にかけて,上位の者より下位へ向かって発せられる文書のうち,差出者の花押の記してあるのをいう。やや限定しては,将軍・守護・大名の発給する文書で,発給者がみずから花押を据えた文書をいう。類似の名称が付けられる文書に,書下(かきくだし),直書(じきしよ)(直状)あるいは書状があり,時代により文書により,名称(文書名)のつけかたに多少の混乱がある。室町時代に,足利将軍の花押のある文書を当時〈判物〉とか〈御判物〉と呼ぶようになり,戦国時代になって判物の呼称が一般化した。近年の代表的見解の一つとして相田二郎は〈戦国時代に至り,諸大名のものにして特殊な名称を以て呼ばないものをおしなべて判物と称しておけば,先ず当時一般に用いていた文書の名称に適合するであろう〉といい,佐藤進一は〈これらの守護・領主・大名らの発給した直状は,戦国時代には直書とか判物と呼ばれた。判物とは,発給者である守護・領主・大名が自ら判(花押)を居(す)えた文書という意味である。(この文書名は江戸時代にも用いられた)〉とする。また佐藤は〈直状(判物)〉という表現をしばしば用いており,直状と判物の区別を明らかにしていない。いずれにしても武家文書において奉行・昵近衆・年寄などが主人の仰せをうけたまわって発給する奉書と,この判物(直書や書下を含めて)は対比して考えられ,また戦国時代,江戸時代では,奉書および印判状(朱印状,黒印状)と対比されよう。いずれも判物のほうが,相手をより敬った丁重な文書である。江戸時代には10万石未満の大名領地の下付・安堵が朱印状であるのに対し,10万石以上の場合には将軍直判の判物が用いられ,これをとくに御判物と称した。判物・奉書両者間の違いを機能的にみると,判物(直書)は感状,所領の給与,安堵,特権の付与など永続的な効力をもつことに出され,一方,奉書は伝達・連絡と他の大名への政治・軍事上の連絡事項に多く用いられたとする佐藤進一の考え方が有力である。
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百科事典マイペディア 「判物」の意味・わかりやすい解説

判物【はんもつ】

室町時代以降,将軍・守護・大名が発給した直状(じきじょう)形式の文書で,発給者みずからが花押(かおう)を据えたものをいう。所領の給与・安堵(あんど),特権の付与などを行う場合に用いた。江戸時代には,将軍が10万石以上の領知(りょうち)を大名に与える場合やその安堵に用いられた。
→関連項目預状安堵状寛文印知公家領知行知行宛行状

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「判物」の意味・わかりやすい解説

判物
はんもつ

武家様文書の一形式。室町・戦国時代以後、上位者が花押(かおう)を据え下位の者に出した文書のこと。広義には、印判(いんぱん)を使用しているもの(印判状)を除いたもので、守護や大名が自ら花押を加え、所領の宛行(あておこない)や安堵(あんど)など公的な場合に発給された下達(げだつ)形式、直状(じきじょう)形式の文書の総称。同じく花押を据えてはあるが私的性格の強い書状に対置されるものである。花押の位置は、袖(そで)、奥、日下(につか)(日付直下)の3種がある。南北朝・室町期に守護以下の武士が出した書下(かきくだし)は、戦国期には判物とよばれるようになる。室町幕府の将軍が自ら花押を加えた文書は、御判(ごはん)、御判物とよばれた。安土(あづち)桃山・江戸時代には、領知判物や、代替りの際の継目(つぎめ)判物などに使用され、また戦国末から江戸時代には、花押と印判を併用したより厚礼なものも増える。

[大久保俊昭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「判物」の意味・わかりやすい解説

判物
はんもつ

古文書の様式。守護,領主,大名などが判 (書判,花押 ) を自署した文書。室町時代以降の呼び名で,感状,所領給与,安堵,特権の付与,承認などに際し用いられた。

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世界大百科事典(旧版)内の判物の言及

【安堵】より

…なお中世武家権力を主従制的・統治権的支配の二元性においてとらえる学説が有力であり,少なくとも初期室町幕府では,安堵は足利直義の管轄した統治権的支配の中核であったが,安堵が本来そのような性格のものであったかどうかは,なお未解決な問題といえよう。【笠松 宏至】
[近世]
 江戸時代には主君から給与された所領知行は一代限りという原則のもとに,相続は許可制をとり,将軍代替りの際には判物(はんもつ)あるいは朱印状によって継目安堵が行われ,大名よりは判物や黒印状をもって行われた。朱印状によって安堵された所領は総称して朱印地というが,大名領が領分,旗本領が知行所と呼ばれるのに対し,狭義には寺社領のみを指す。…

【書下】より

…ここにおいて書下は,差出人の専裁的な面を膨張させた文書に変化する。戦国大名,近世大名の発する判物(はんもつ)とは,この守護書下の系譜をひく文書ということができる。【富田 正弘】。…

【公家領】より

…ちなみに江戸中期の宮・公家(106家)の総高は4万6600石となっている。家領の大小は,家格の高下,家々の新古,幕府との密接度によって決定され,領知状における判物・朱印状の区別は,諸大名の場合には一応10万石以上が判物,以下が朱印状であったのに対し,公家の場合は家格・官位によって区別があり,清華・大臣家以上および従一位には判物,それ以下には朱印状をもって発給された。また家領のほか,1634年(寛永11)以降には未家督者に対し〈方領(ほうりよう)〉が支給されたが,これは200石より50石までで一定していない。…

【武家様文書】より

…これには竪紙(たてがみ)奉書と折紙(おりがみ)奉書の2様があった。室町時代地方分権化した有力守護大名はみずから花押を据えた直状を多く用い,これを書下(かきくだし)とか判物(はんもつ)と称した。戦国時代になると各地の戦国大名が印章を捺した印判状(いんばんじよう)を発するようになり,所領の充行(あておこない)や安堵(あんど)などの恩給文書には判物,領内治政の民政文書には印判状を用いた。…

※「判物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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