改訂新版 世界大百科事典 「変成相」の意味・わかりやすい解説
変成相 (へんせいそう)
metamorphic facies
岩石の変成はさまざまな温度と圧力のもとで起こる。変成作用をうけた岩石が変成岩になる場合,同じような化学組成をもつ岩石は同じような温度と圧力条件のもとでは同じ鉱物組成をもつ。互いに違った化学組成であっても,同じような温度と圧力条件で再結晶した場合には,一定の関係をもついくつかのちがった鉱物組成が生ずる。このような温度と圧力のあるきまった範囲を変成相と呼ぶ。一方,違った温度と圧力の条件下で変成作用をうけると,同じ化学組成の岩石でも異なる鉱物組成の変成岩になる。この場合,互いに近い温度・圧力の条件(つまり変成相)で生ずる鉱物組成の間は,一つまたはいくつかの鉱物と鉱物の化学反応で表される。このような化学反応のうちいくつかは温度と圧力を座標にとったグラフ上で曲線または直線で表すことができる。これを平衡曲線という。そこで代表的な化学反応の平衡曲線を選んで,変成相つまりある温度と圧力の範囲を区切ることができる。
当初エスコラP.E.Eskolaによって設けられた変成相は,温度の高くなる順に緑色片岩相,緑レン石角セン岩相,角セン岩相,輝石ホルンフェルス相,サニディナイト相,グラニュライト相,やや圧力の高い条件で温度の高い順にランセン石片岩相とエクロジャイト相の8変成相である。後にクームスD.S.Coombsによって沸石相とプレーナイト-パンペリアイト変グレーワッケ相(現在ではプレーナイト-パンペリアイト相と呼ばれている)の二つの変成相が追加された。これらの変成相の境は,多くの鉱物がいくつかの成分について連続して変化する自由をもち,化学反応が一つの曲線で表現されないため,きちっとしたものではなく,ある範囲をもっている。変成相の温度や圧力を知るためには,代表的な鉱物と鉱物との化学反応の平衡曲線を実験的に決定しなければならない。実際にはAl2SiO5という化学組成をもつ紅柱石,ラン晶石,ケイ線石の三つの鉱物の間の平衡曲線とヒスイ輝石,石英が反応してアルバイトを作る化学反応の平衡曲線が実験的に決定され,だいたいの各変成相の温度・圧力目盛が得られた。現在ではより多くの平衡曲線が実験的に決定され変成相の範囲もより詳しく調べられている。
ランセン石片岩相の変成岩にはしばしばヒスイ輝石が含まれている。ランセン石片岩相は一時期(1950年代まで)その存在を疑われていた。しかし日本の研究者によって強くその存在を主張され,その後,先にのべたヒスイ輝石の平衡曲線が実験的に決定されたことによって,ヒスイ輝石が石英といっしょにあるときには非常に高圧を示すことがわかり,ランセン石片岩相が低温で著しく高圧条件を示す変成相であることが裏づけられた。
執筆者:鳥海 光弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報