南都とは奈良を指すが,とくに興福寺を中心とする南都仏教教団をいい,北嶺は比叡山延暦寺をいう。藤原氏の氏寺である興福寺は,摂関政治以降寺勢が拡大し,東大寺を除く大寺の別当は興福寺僧によって占められ,公卿の子弟で入寺するものも漸次増加した。一方9世紀の初頭,最澄が比叡山に天台教団を開創し,大乗戒壇を創設して以後,南都と叡山の確執が繰り返され,10世紀後半より出現した僧兵の武力を背景に,興福寺は春日社の神木,延暦寺は日吉社の神輿を奉じて朝廷に強訴(ごうそ)し,あるいは両者が互いに闘争を繰り返すこともしばしばあった。両者とも〈一寺三千〉とか五千という大衆(だいしゆ)を擁し,承久の乱,南北朝時代の抗争にも加わり,一勢力を形成していたが,16世紀後半織田信長の延暦寺焼打によりその勢力は衰え,抗争も跡を断つにいたった。
執筆者:堀池 春峰
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中世において大きな社会的勢力をなしていた寺社勢力を指す。南都とは、北に位置する平安京に対する平城京すなわち奈良の都をいうが、とくに、中世になって都市的発展をみせたかつての外京地域に位置する東大寺・興福寺などの寺院やその周辺地域を指していう。ひいては、これらの寺院のなかでもとりわけ強大な力を誇った興福寺を、また同寺およびそれを中核とする寺社勢力を意味した。一方、北嶺は直接には比叡山延暦寺のことであるが、南都北嶺と総称する場合には、園城寺(おんじょうじ)(三井寺)などを含むこともある。すなわち、南都北嶺という語は、平安時代以来、国家的崇敬を受けていたという由緒と正統性を誇り、院政期以降には巨大な実力を兼ね備え、社会的政治的影響力を行使した寺社勢力の総体を表現する場合に用いられている。そのなかで興福寺と延暦寺はそれぞれの中核に位置する代表的な存在であった。
[久野修義]
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南都北京・南北とも。奈良の諸宗諸寺と延暦寺の総称。とくに興福寺と延暦寺をさす。最澄以来,南都は平安京の南にある奈良の仏教勢力を,北嶺は平安京の北の比叡山にある延暦寺をさしたが,10世紀後半からこのうち興福寺と延暦寺が強大な僧兵を擁して強訴(ごうそ)や闘争をくり返したため,とくに両寺をさす語ともなった。
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