日本の近代製鉄業の父とよばれる採鉱冶金(やきん)技術者。南部藩医の子として盛岡に生まれる。家業を継ぐため江戸に出て箕作阮甫(みつくりげんぽ)、坪井信道(つぼいしんどう)らの門に入り、蘭学(らんがく)、医学を学んだ。1846年(弘化3)長崎に留学してのちは、オランダ語の文献を通して「西洋の兵法、砲術、鉱山、製錬の方法」を精力的に学び、学友の手塚律蔵とともに蘭書『ロイク(リエージュ)国立鉄製大砲鋳造所における鋳造法』(オランダ人ヒュゲーニンU. Huguenin(1755―1833)原著。1826)を訳述したほか、高島秋帆(たかしましゅうはん)(1798―1866)の子、浅五郎(あさごろう)(1821―1864)について、西洋流砲術の免許皆伝を受けた。1853年(嘉永6)藤田東湖(ふじたとうこ)に招かれて、水戸藩の大砲鋳造用反射炉の建設にかかり、その創業に成功すると、ただちに郷里南部藩の釜石鉄山(かまいしてつざん)に洋式高炉を築き、近代製鉄技術の源流を導いた。反射炉と、その原料としての銑鉄をつくる高炉とを、一つの総合的な技術システムとしてとらえ、ヨーロッパの製鉄原理を、よく日本の土着文化と結びつけたところに彼の先駆性がある。南部藩の産業開発や技術教育の実践面でも優れた業績を残したが、1874年(明治7)工部省釜石製鉄所の立地に関し、外国技術を偏重する政府官僚にいれられず、その後は十輪田、小坂、阿仁(あに)など、もっぱら非鉄諸鉱山の技術経営にあたり、1885年佐渡鉱山局長に進み、退任後は日本鉱業会初代会長に選ばれた。
[飯田賢一]
『大島信蔵編『大島高任行実』(1938・私家版)』▽『半沢周三著『日本製鉄事始・大島高任の生涯』(1974・新人物往来社)』
幕末・明治の採鉱冶金学者,近代製鉄技術の先駆者。本名総左衛門,号は周禎。南部藩侍医を父として盛岡で生まれる。1842年(天保13)江戸に出て,箕作阮甫,坪井信道のもとで学ぶ。46年(弘化3)21歳のとき,藩命により長崎でオランダ医学を学ぶように指示され留学をする。しかし,医学を修めることより蘭書を読むことに熱中し,西洋の兵法,砲術,採鉱,製錬術などの知識を得る。その間に同学の士手塚謙蔵(のち律蔵を名のる)とともに,オランダのリエージュ国立鋳砲所の大砲鋳造法を著した《西洋鉄熕(てつこう)鋳造篇》を訳出し,大砲鋳造,鉱山冶金技術に関する知識を身につけた。この技術書は,佐賀藩,薩摩藩で反射炉を築造するときに重要な役割をはたしたものである。とくに,それまで西洋の製鉄技術に関しての知識が皆無に近かった日本人にとって,豊富な図解が示され詳細に記述されたこの本は,非常に有効なものであった。
時代的にも,幕末期を迎える時期にあり,国防のための武器が必要となり,そのための大量の鉄材が要求されるようにもなっていた。
また,53年(嘉永6)藤田東湖らによって水戸藩に反射炉を築造する計画が出されたとき,技術者として積極的に参加し,55年(安政2)その築造を成功させている。そして,鋳造用銑鉄を確保するために,南部藩釜石鉄山の開発を進め,鉄鉱石を原料とする洋式高炉を日本で最初に建設した。57年12月1日,この洋式高炉で初出銑に成功し,今日,この12月1日が〈鉄の記念日〉とされている。この業績は,日本の近代製鉄技術への道をつけたものとして大きく評価されている。その後,北海道,尾去沢,小坂などの鉱山で技術指導を行うとともに,技術教育にも熱心に取り組み,藩学校日新堂,函館の坑師学校を創立した。明治初期につくられた工部省の工学寮(のちの工部大学校)設立にも大きな影響を与えた。日本鉱業会初代会長も務めた。
執筆者:雀部 晶
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(小林正彬)
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… 明治政府は主要鉱山の官行を決め,佐渡鉱山も1869年(明治2)政府の直営するところとなった。その後つぎつぎと洋式技術が取り入れられ近代化が図られたが,とりわけ85年大島高任が佐渡鉱山局長に任ぜられると,事業は大拡張され,4ヵ年に総額18万円余を投入し大発展することになった。やがて96年三菱合資会社に173万円で払い下げられ,以後は三菱の経営で第2次大戦後に及んだ。…
※「大島高任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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