精選版 日本国語大辞典 「大砲」の意味・読み・例文・類語
たい‐ほう ‥ハウ【大砲】
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大きな弾丸を発射する兵器。軍事用語としての大砲という概念はないので、どれくらいの口径をもって大砲というのかは、きわめてあいまいであるが、ここでは口径75ミリ以上の火砲を大砲とよぶ。ただし、これはあくまでも社会通念的な区分であり、軍事的には弾丸の中に火薬を充填(じゅうてん)できる30ミリ前後以上のものを砲としている。
1991年の湾岸戦争は、先端技術を駆使したミサイルと航空機の攻撃で多国籍軍の圧倒的な勝利に終わったかにみえたが、イラクのサダム・フセイン体制の崩壊に至らず、軍事的には中途半端な結果となった。このことは、航空攻撃だけでは戦争の雌雄を決するには不十分で、最終的に陸戦(陸上戦闘)による戦略的拠点の攻略・占領が勝敗にとって不可避であることを示している。陸戦はテレビゲームのような航空攻撃とは様相が大きく異なり血みどろな戦闘の連続であるが、その陸戦の主力となるのが、戦車、野砲などの陸上火力である。ここでは野砲のなかでも一般的に大砲とよばれる兵器についてみていく。概して大砲は、ミサイルなどのハイテク兵器と違い、鈍重、古くさい、時代遅れといったイメージが強く、事実、技術的進歩の遅い兵器である。だが、戦争の最終決着をつけるために不可欠の兵器である。
[猪口修道]
大砲らしい兵器が登場するのは12世紀後半の中国で、元軍と対戦した宋(そう)軍が突火槍(とっかそう)とよぶ兵器を用いている。突火槍を大砲の原型と考えてもよいが、本格的な大砲として発達するのは14世紀初頭である。中国から伝えられた黒色火薬を使ってヨーロッパに登場した大砲は、錬鉄の棒を溶接し、一端を閉じた筒状にし、その上から鉄のたがをはめたもので、筒の中に発射薬の黒色火薬と石の弾丸を入れ、点火発射する仕掛けであった。10発も撃てば砲身は破裂し使用不能となった。また、車輪が装備されておらず、前線に固定し攻城兵器として使用された。
15世紀になると、車輪を装備し、青銅で鋳造した大砲が出現する。同時に大砲から小銃、ピストルが分化し、発展していくことにより、火薬の燃焼ガスの力を利用した兵器は、それまでの弓、弩(いしゆみ)(ばね仕掛けで石や矢を発射する武器)など人力兵器を戦場から駆逐し、戦争形態を大きく変化させた。しかし、丸い石から鋳鉄弾丸に移行しても、築城技術の改良が進み、やがて大砲は小銃に主役の座を奪われる。大砲の威力が復活するのは17世紀初期である。スウェーデンのグスタフ・アドルフ(グスタフ2世、1594―1632)は当時開発された榴散弾(りゅうさんだん)を用い、積極的に鋳鉄製大砲を活用するために砲兵連隊を創設し、機動性を高めた。彼の改革は他のヨーロッパ諸国にも刺激を与え、フランスでは1690年代に砲兵学校が設立され、のちにナポレオンがここを卒業する。ナポレオンの時代に射撃技術はいちおうの発達を遂げ、火道式信管の榴弾も登場し、大砲全盛時代の到来かと思われた。しかし銃身に螺旋(らせん)を刻んだ小銃(ライフル銃)の登場は、射撃精度が悪く装填(そうてん)に時間のかかる大砲の威力を凌駕(りょうが)した。名実ともに大砲が軍事学的、政治学的に主役の座を占めるのは1850年以降である。ライフル銃に刺激され、砲身に腔綫(こうせん)(ライフル)を刻んだ砲がつくられ、射撃精度があがる。また、それまでは砲口から発射薬、弾丸を装填する前装式が主流であったが、砲尾装填の後装式が開発される。これにより装填に要する時間は大幅に短縮され、速射砲が実現する。さらに1860年代には鋼鉄製砲身がつくられ、より強力な発射薬使用が可能になる。また、発射時の反動で後戻りする砲身の反動力を弱める駐退機、反動力を利用して砲身を元の位置に戻す復座機が1880年代に発明され、近代的大砲の基礎はこのころ形成される。19世紀末にはフランスのビエイユの無煙火薬の発明で、大砲の性能は一段と進歩するが、遠くの見えない敵に対する集中砲火が可能になるのは20世紀初期である。直接見える目標に対する射撃を直接照準射撃といい、遠方の山かげの見えない目標に対して地図の座標を利用する射撃を間接照準射撃という。日露戦争では日本軍が後者の方式を採用している。
間接照準方式の開発により砲兵の活躍の場が広がる。また第一次世界大戦時、戦車、航空機の登場が大砲に新たな分野を切り開き、対戦車砲、高射砲を発展させた。大砲が主役となった近代戦は時代を追うごとに弾丸消費量の急激な増大を招いた。たとえば、アメリカ軍は第二次世界大戦の1.8倍の弾薬をベトナム戦争で消費している。大砲が発達すればするほど、これに対する防御策がとられ、矛と盾の関係のように際限なく追求されていくからである。現代はミサイル、航空兵器の発達が目覚ましいが、大砲もエレクトロニクスやコンピュータ技術をふんだんに取り込むことで、技術革新が図られようとしている。
[猪口修道]
現代の大砲は原理的には14世紀の砲と変わらない。火薬の燃焼ガスを密閉に近い空間で発生させ、その急激な圧力で弾丸を発射する原理は同じである。後装式ライフル砲は、砲尾に鎖栓(させん)あるいは隔螺(かくら)とよばれる砲尾閉鎖機が設けられている。閉鎖機を開き、弾丸と発射薬(装薬が袋状になった薬嚢(やくのう)か筒状になった薬莢(やっきょう))を装填し、閉鎖機を閉じる。発射は、撃針に物理的圧力か電気を伝えることで雷管を発火させ、装薬を燃焼させる。弾丸の発射と同時に砲身は作用・反作用の法則で後部に移動しようとする。この力を油気圧を利用して弱め、ブレーキをかける。さらに油気圧系に伝えられた力を利用して砲身を元の位置に戻す。この装置を駐退復座機とよぶ。射距離が伸びている現在、砲のわずかな位置の狂いも着弾地点に大幅な狂いを生ずる。これを防止するためにも駐退復座機の役目は大きい。さらに砲に方向(射向)、俯仰(ふぎょう)(射角)を与える装置も正確な射撃には欠かせない。このために、円周の6400分の1(0.05625度)であるmil(ミル)とよばれる単位が欧米、日本で用いられ、これに呼応した精密な作動装置がつくられている。砲塔をもった砲であれば、射向は電動あるいは油圧装置で作動できるが、牽引(けんいん)式の野砲の微調整は、ハンドルを人力で回して行う。射角はかつて上下角、高低角の二つに分けられたが、いまでは高低角のみで射角とされている。射角は人力あるいは機械力で与えられる。射撃要員に伝達されるのは射向、射角と信管秒時で、これを決定するにあたり射撃諸元が求められる。距離、方角、風向、風力、気温、火薬の種類、弾丸初速、地球の回転などの影響を、標準状態で射撃したときの射撃諸元と比較し修正していかなければならない。これらの要素をまとめたのが射表で、実戦上の目安として用いられる。コンピュータが発達した今日では、照準装置に射表を記憶させ、敏速な射撃が可能になった。
直接照準射撃の場合は、敵の発見がただちに砲に射撃の必要条件を与えることになる。このために射撃管制装置Fire Control System(FCS)が開発されており、レーダー、赤外線などのエレクトロニクス技術や目視による情報をリアルタイムで処理できる。これに対し、間接照準射撃では、情報の要素は測量や空中撮影による調査、さらに地図である。軍事学に地図は不可分のものだが、間接照準射撃にはより重要な資料といえる。正確な射撃には事前にこうした情報収集が不可欠である。
[猪口修道]
第一次、第二次両世界大戦を通じて大砲の種類は増加した。これらをまとめて火砲とよぶが、大別すると、陸の陸戦兵器、海の砲熕(ほうこう)兵器、空の航空火力に分類できる。陸戦兵器は戦車の登場でより装甲化され、機動性が重視される傾向にある。砲熕兵器はかつての大艦巨砲主義とは逆に、小口径で速射性の高いものが追求されている。もはや艦隊決戦で砲が活躍する時代ではなく、むしろ対空火力として、対空ミサイルをかいくぐって襲来する敵機やミサイルに対抗する兵器として位置づけられている。航空火力は機関砲が主力で、対戦車および対航空機用が主流。コンピュータでコントロールされ、単位時間当りの発射弾量の多いものが使用されている。
構造的には榴弾(りゅうだん)砲、カノン砲、迫撃砲、無反動砲、機関砲、さらにライフルのない滑腔砲に分けられる。機能別には牽引(けんいん)式砲、自走砲、戦車砲、対戦車砲、高射砲、艦砲などに区別できる。
[猪口修道]
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…そして急速に威力を増しつつ普及するのが15世紀初頭である。注意すべきことは,火薬がまず大砲に応用されたのであって銃の発明ははるかに遅れることである。これは巨大化によって威力を増幅できると単純に考えられたほかに,砲は何よりも攻城機械の一種として利用されたからである。…
※「大砲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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