翻訳|airglow
超高層大気の原子,分子が発する非熱的な放射をいう。太陽紫外光がそのエネルギー源である。ただし,昼間の天空光は太陽光の大気分子による散乱に起因する非熱的大気放射であるが,主として下層大気で起こっているので,通常,大気光には含めない。赤外領域では超高層大気からの熱的放射も存在するが,これを非熱的放射と区別することは事実上困難なので,超高層大気の発する放射は熱的放射まで含め,すべて大気光と呼ぶこともある。超高層大気の非熱的放射としては他にオーロラがあるが,そのエネルギー源は磁気圏プラズマであり,極地域に特有の現象であるから,大気光とは区別する。しかし,極地域において,大気光と微弱なオーロラとを区別することは不可能に近い。
大気光は観測される時刻によって,夜間大気光,昼間大気光,薄明大気光に分類されている。この分類は観測条件の違いに由来しているが,日照条件によって主たる発光過程が交代するので,全体的なスペクトルの特徴にも違いがある。月のない夜空の漠然とした光は夜天光あるいは夜光と呼ばれていたが,これには大気光,星野光,黄道光の3成分がある。大気光の観測が夜間のみに限られていた時代には,大気光のことを夜光と呼んでいたこともあった。大気光は天空上での分布やスペクトルの違いから,星野光,黄道光とは区別される。強度は星野光,黄道光に比べると強いが,肉眼で識別することは難しい。
大気光のスペクトルは原子の輝線と分子の帯スペクトルが数多く混ざり合ったものである。夜間大気光で代表的なものは,酸素原子の禁制線557.7nm,630.0nm,636.4nm,ナトリウムのD線589.0nm,589.6nm,水酸分子OHの振動回転帯スペクトル(可視および近赤外域),二酸化窒素分子の帯スペクトル(可視および近赤外域にまたがり連続的に分布)などである。そのほか,紫外域や赤外域に酸素原子の禁制遷移および許容遷移に対応する輝線,酸素分子の帯スペクトルなどが現れる。これらはいずれも,太陽紫外光の電離作用や解離作用によって昼間作られた原子やイオンが,化学反応によって夜間徐々に消えていく際に発光する,すなわち化学蛍光によるものである。また,水素のライマン線121.6nm,102.7nmやバルマー線656.3nmおよびヘリウムの輝線も存在する。これらは外圏大気の水素やヘリウムによって太陽光が共鳴散乱され,多重散乱の結果夜側に光が回りこんだもので,特別に地球コロナgeocoronaと呼ぶことがある。夜間大気光の発光高度をみると,高度85kmから100kmを中心に10kmくらいの厚さで存在するもの,いくつかの酸素原子の輝線のように高度200kmから400kmにかけて分布するもの,水素やヘリウムの輝線のように高度500kmから数千kmにかけて広く分布するものに大別される。例外的に酸素原子の557.7nm輝線は高度200~400kmから発する成分よりも,高度97kmにある厚さ5kmほどの層から発する成分のほうが強い。
昼間大気光では,化学蛍光以外にも,太陽紫外光の共鳴散乱や共鳴蛍光,太陽極紫外光による大気の原子,分子の光解離や光電離に伴う励起,太陽極紫外光による光電離の際生成される光電子が大気の原子,分子を衝撃励起するなどの発光励起過程が働く。そのため,夜間には見られない窒素原子や酸素原子の種々の輝線,窒素分子,酸化窒素分子,窒素分子イオン,酸素分子イオンの帯スペクトルなどが紫外域や赤外域に数多く現れる。夜間に見られるスペクトルはもちろん昼間にも現れ,強度は夜間に比べてけた違いに強くなる。しかし,地上からの観測は天空光に妨げられるので,ロケットや人工衛星から観測する。昼間大気光の発光高度域は,夜間に比べて幅広く超高層大気中に分布するのが普通である。
薄明大気光は超高層大気にはまだ日照が残っている時刻のものであるから,本質的には昼間大気光と同じものである。天空光が弱まるので地上から観測でき,ナトリウムをはじめアルカリ金属原子およびそのイオンの輝線,酸素原子イオンの禁制線732.0nm,ヘリウムの輝線1083.0nmなど,日中の観測が難しいスペクトルも検出されている。
大気光の強さは輝線や帯スペクトルにより独自の変化を示す。この変化は発光に関与する大気の原子,分子の密度変化や,各種発光励起過程の強さの相対変化を反映している。観測地点によっても強度変化があり,酸素原子の630.0nmや135.6nm輝線の夜間大気光は,赤道をはさむ南北の亜熱帯地域で強く,これは特に亜熱帯グローと呼ばれている。
執筆者:小川 利紘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
超高層大気の原子や分子が発する放射で、そのエネルギーの源は太陽の紫外線(紫外光ともいう)である。類似の現象としてオーロラがあるが、そのエネルギー源は磁気圏にあり、極地に特有の現象であるから、大気光とは区別する。しかし、オーロラのなかでも微弱で形のないものは、大気光と区別することは事実上不可能である。
大気光は一日中つねに存在しており、時刻により、夜間大気光、昼間大気光、薄明大気光に分類される。大気光の発光にはさまざまな量子過程があるが、主たる発光過程が日照条件によって交代するので、光のスペクトルの全体的特徴が時刻によって変わってくるのである。夜間大気光は、以前は夜光ともよばれていた。
月のない夜空の漠然とした光は夜天光とよばれ、大気光、星野光、黄道光という起源も性質も異なる3種の光から成り立っている。大気光は、天空上の分布やスペクトルの違いから、他の二つとは区別される。夜間大気光は、星野光や黄道光と同程度の明るさであるが、全天ほぼ一様に分布する微弱な光であるため、肉眼で識別できることはごくまれである。昼間大気光は、夜間大気光に比べると格段と明るいが、下層大気の散乱光である青空に妨げられ、地上からの観測はきわめてむずかしく、おもにロケットや人工衛星から観測される。
[小川利紘]
大気光のスペクトルには、大気を構成する原子の輝線や分子の帯スペクトルが数多く見られる。夜間大気光では、酸素原子やナトリウムなどの輝線、水酸分子や酸素分子などの帯スペクトルが紫外、可視および近赤外域に現れる。これらは、太陽紫外線の電離・解離作用によって昼間つくられた原子やイオンが、化学反応により夜間徐々に消えていく際に発光するもの(化学蛍光)である。また、外圏大気の水素やヘリウムの輝線も見られる。
昼間は、超高層大気は太陽紫外線に直接さらされるので、共鳴散乱がおこるほか、光子エネルギーの高い極紫外線によって大気分子の解離や電離がおこり、また光電子がつくられるなどして、光の励起(れいき)過程が盛んになる。このため、窒素の原子や分子およびそのイオン、酸素の原子や分子およびそのイオン、酸化窒素分子など、夜間には見られない多彩なスペクトルが紫外や赤外域に現れる。夜間に見られるスペクトルも、昼間は明るさを増す。
薄明大気光は、青空の光が弱まり地上から観測しやすい状態となって、しかも超高層大気にはまだ日照が残っていて昼間の状態が続いているという特殊条件下の現象である。ナトリウムなどのアルカリ金属原子、酸素原子イオン、ヘリウムなど、日中の観測がむずかしいスペクトルが検出されている。
[小川利紘]
…中間圏の上部から中間圏界面にまたがる部分は,電離圏の最下部であるD領域にあたり,太陽紫外放射の解離作用や電離作用によって原子や活性分子およびイオンがつくられ,これらの間で活発な化学反応が起こっている。その結果は大気光と呼ばれる発光として観測され,また電離状態が存在していることは電波の反射・吸収によって確かめることができる。【小川 利紘】。…
※「大気光」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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