国語学者。片仮名,万葉仮名,漢字音の研究にそれぞれ卓越した業績を残した。新潟の人。新潟師範卒業。1902年国語調査委員会補助委員(のちに委員)となり,片仮名が平安時代初め(8世紀後期)作り出されて後,年代的に字形が変えられて現行の字形となる経過を,年代の確実な仏典・漢籍の傍訓によって明らかにし,《仮名遣及仮名字体沿革史料》(1909)を刊行した。その後も片仮名の源流を求めて推古時代(7世紀初めころ)の万葉仮名の研究にいたり,その万葉仮名の字音が中国周代(前1100ころ-前256)の古音にもとづくことを看取して古代シナ音の研究に没頭し,《仮名源流考》(1911),《周代古音考及韻徴》(1914),《韻鏡考》(1924)をまとめた。また,五十音図,いろは歌の研究を行い,平安時代の初めにはア行の〈衣(エ)〉[e]とヤ行の〈江(エ)〉[je]との発音の区別があり,仮名も書きわけられていたことを明らかにした。《音図及手習詞歌考》(1918),《古言衣延弁証補》(1907)のほかに,奈良正倉院の古経巻の訓点を調査した記録多数があり,《仮名の研究》によって1925年学位を得た。
執筆者:大野 晋
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国語学者。新潟県生まれ。1876年(明治9)新潟師範学校(現、新潟大学教育学部)を卒業。1885年文部省に入り、のち国語調査委員会委員となって、とくに仮名研究に専念して諸寺の古経巻を踏査、その資料を収集した。仮名字体、仮名遣いの変遷を帰納的に研究考証し、ア行のエと、ヤ行のエが延喜(えんぎ)(901~923)以前では区別のあったこと、古代の仮名が中国周代以前の古い漢字音と一致することなどを論証、また『五十音図』『いろは歌』などの起源や成立年代にも創見を示した。これに伴う周代古音の研究や『韻鏡』の解釈などに関する著述もあり、資料に基づく考証的学風で、国語史研究ことに訓点語学に寄与した功績は大きい。
[沖森卓也 2018年10月19日]
『『国語と国文学』大槻大矢両博士記念(1928年7月号・至文堂)』
明治・大正期の国語学者
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…この会は,その事業の目的として,国語問題の解決をうたったのであるが,世に送った調査報告の多くは,国語問題に寄与するところがとぼしかった。その代りに,それらは,その学術的価値においてはなはだすぐれ,明治から大正初期にいたる時代の,国語学の歴史を飾る不滅の業績となっている(《音韻調査報告書》《口語法調査報告書》,大矢透《仮名源流考》,山田孝雄《平家物語につきての研究》その他)。大正の初年に,国語調査委員会が廃止されてのち,少なくとも,表面的には,国語学は衰えたが,少数の優秀な学者は,その研究をつづけた。…
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