天鼓(読み)てんこ

精選版 日本国語大辞典 「天鼓」の意味・読み・例文・類語

てん‐こ【天鼓】

[1] 〘名〙
天上に鳴るつづみ。雷鳴。かみなり。
※本朝文粋(1060頃)一・高鳳刺貴賤同交歌〈源順〉「口是木訥、天鼓之声頻鳴」 〔漢武帝内伝〕
[2]
[一] 能楽曲名四番目物。各流。作者不詳。中国の天鼓という少年楽人は、天から授けられた鼓(つづみ)を帝に召し上げられるのを拒み、呂水の江に沈められる。宮廷に運ばれた鼓は誰が打っても鳴らないので勅使がつかわされ少年の父王伯に打たせると、鼓は妙音を発する。これを哀んだ帝が追善の管弦講を催すと、天鼓の霊が現われて鼓を打って舞をまう。
[二] 浄瑠璃。時代物。五段。近松門左衛門作。元祿一四年(一七〇一)頃大坂竹本座初演。楽人富士丸の遺児沢瀉姫に心ひかれた親王は、姫に家宝の天鼓を持って宮仕えせよと命じるので、太見県主時景(ふとみのあがたぬしときかげ)夫婦がこれをねたんで自分の娘夕映を代わりに差し出そうとするが、千年を経た丹州の狐が姫を助け、時景を滅ぼす筋。

てん‐く【天鼓】

〘名〙 (「く」は「鼓」の呉音) 打たなくても妙音を発するという天人が持つ太鼓。仏の説法にたとえる。
宝物集(1179頃)「天鼓自鳴のなけきあり」 〔法華経序品

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デジタル大辞泉 「天鼓」の意味・読み・例文・類語

てんこ【天鼓】[謡曲]

謡曲。四番目物。少年楽人の天鼓は天から授かった鼓を帝に献上するのを拒み、呂水に沈められ殺される。その後、鼓は鳴らなくなるが、天鼓の父が打つと妙音を発する。帝が哀れを感じて追善の管弦講を催すと、天鼓の亡霊が現れ、鼓を打ち楽を奏する。

てん‐こ【天鼓】

天上界で鳴るというつづみ雷鳴のこと。かみなり。

てん‐く【天鼓】

仏語。忉利天とうりてん善法堂にあり、打たなくても自然に妙音を発するという太鼓。仏の説法にたとえる。

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改訂新版 世界大百科事典 「天鼓」の意味・わかりやすい解説

天鼓 (てんこ)

能の曲名。四番目物。作者不明。前ジテは天鼓の父王伯。後ジテは天鼓の霊。中国に昔,王伯,王母という老夫婦がいた。あるとき王母は,天から鼓が降ってきて胎内に入ったという夢を見て懐妊したので,生まれた子を天鼓と名付けたところ,その後本当に鼓が降ってきた。天鼓はその鼓をたいせつにしていたが帝がその名器のことを聞き,召し上げようとした。天鼓はいやがって山中に隠れたが,ついに見つけられ,呂水に沈めて殺された。ところが,取り上げて宮中に据えたその鼓は,いくら打っても音がしない。そこで,父親の王伯を呼び出すために勅使が差し向けられる。

 以上の経緯は,最初に登場する勅使(ワキ)の言葉で説明される。勅命を聞いた王伯(前ジテ)は,罪が自分にまで及ぶのかと恐れるが,愛児を奪った帝の顔を一目見ようと決意し,宮中に赴く。王伯が命に従って鼓を打つと,もとどおりの妙音を発したので帝も心を打たれ(〈クセ,ロンギ〉),老人に恩賞を与え,呂水のほとりに鼓を据えて天鼓を弔うことになる。夜半になると天鼓の霊(後ジテ)が水上に現れ,愛器に再びめぐりあったうれしさに,鼓を打ち鳴らして浮き浮きと舞い遊び(〈楽(がく),中ノリ地〉),夜明けとともに幻のように消えていく。前場では子を失った老父の屈折した感情がよく描かれているが,能全体の主題は音楽説話の舞台化にある。天鼓の霊は,非道な殺されかたをしたのに恨みもせず,大好きだった楽器に久びさにめぐりあえた喜びを純粋に表現する感じである。
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普及版 字通 「天鼓」の読み・字形・画数・意味

【天鼓】てんこ

雷。また、雷に似た音。〔史記、天官書〕天鼓はること雷の如きも、雷に非ず。地に在りて、下(しも)地にぶ。其のは、兵其の下に發す。

字通「天」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天鼓」の意味・わかりやすい解説

天鼓
てんこ

能の曲目。四番目物。五流現行曲。天から授かった鼓(つづみ)を持つ少年天鼓は、それを差し出せという皇帝の命令に背いたため、呂水(りょすい)に沈められ殺される。宮中に召し上げられた鼓はだれが打っても音を出さぬ。勅使(ワキ)が少年の老父(前シテ)を呼び出して打たせると、恩愛のきずなか、鼓は美しい音を発する。感動した皇帝は、天鼓のための音楽葬を命ずる。天鼓の霊(後(のち)シテ)は弔いを感謝して水中から現れ、愛する楽器を演奏し、夜明けとともに消えていく。前半の悲痛さに、後半の純粋な音楽への陶酔の喜びが際だつ。前シテが親で、後シテが子供の亡霊という形の能には、ほかに『藤戸(ふじと)』『昭君(しょうくん)』がある。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天鼓」の意味・わかりやすい解説

天鼓
てんこ

能の曲名。四番目物。作者未詳。中国の後漢の時代,天鼓という鼓の天才少年が,天から授かった鼓を勅命で召し上げられようとしたのを拒んだため死罪となり,鼓 (作り物の羯鼓〈かっこ〉台) は宮中に運ばれる。この鼓をだれが打っても鳴らないので,勅使 (ワキ〈側次,白大口〉) が差向けられ,少年の父王伯 (シテ〈小牛尉面,水衣〉) を召す。悲しみに沈む父は,恨みを押えて子を慕いながら鼓を打つと,鳴らぬ鼓が妙音を発し,帝も後帝も御感あり,恩賞を与え,下人 (間狂言) を呼出して送り帰らせる (中入り) 。やがて天鼓を沈めた呂水のあたりで追善の管弦講を催すと,天鼓の亡霊 (後ジテ〈童子面,黒頭,法被肩脱〉) が現れ,弔いを喜び,鼓を打ち楽を奏して消えうせる。小書 (こがき) に「弄鼓之舞」 (観世) ,「呼出」 (宝生) ,「盤渉 (ばんしき) 」 (宝生,金春,金剛) ,替間に「楽器」がある。

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デジタル大辞泉プラス 「天鼓」の解説

天鼓

一丸章の詩集。1973年、第23回H氏賞受賞。

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