太神楽(読み)ダイカグラ

デジタル大辞泉 「太神楽」の意味・読み・例文・類語

だい‐かぐら【太神楽/代神楽】

伊勢神宮へ一般の参詣人が奉納する神楽御師おし邸内で行われた。太太だいだい神楽。
1から転じた江戸時代大道芸もと伊勢神宮や熱田神宮の下級神官が全国各地を回って神事としての獅子舞ししまいを行うものであったが、しだいに曲芸茶番などを行うようになった。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「太神楽」の意味・読み・例文・類語

だい‐かぐら【太神楽・代神楽】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 伊勢神宮へ奉納する神楽。太太神楽・大神楽・小神楽の等級がある。
      1. [初出の実例]「伊勢太神宮有大神楽、是は大阪秀頼公乳母局有参詣、秀頼公并御袋、為祈祷前被大神楽」(出典:当代記(1615頃か)慶長一三年五月二四日)
    2. 獅子舞・曲芸・掛合茶番などの曲芸。もと、伊勢神宮にその人にかわって神楽を奉納すると称したところから出たもので、諸国を巡業して歩いた。後に寄席芸にもなった。
      1. 太神楽<b>[ 一 ]</b><b>②</b>〈花洛細見図〉
        太神楽[ 一 ]〈花洛細見図〉
      2. [初出の実例]「其折から人むら立て曲太鼓大神楽(タイカクラ)のきたりおのおのあそび所を見掛」(出典:浮世草子・好色五人女(1686)一)
  2. [ 2 ] 歌舞伎所作事。
    1. [ 一 ] 常磐津節「松色操高砂(まつもろともみさおのたかさご)」の通称。二世瀬川如皐作。四世岸沢式佐作曲。初世藤間勘十郎・市川七十郎ら振付。文化一四年(一八一七)江戸河原崎座初演。七世市川団十郎と五世岩井半四郎の五節句の所作の一つ。高砂の尉と姥から引きぬいて太神楽と鳥追いで踊る。
    2. [ 二 ] 長唄。十二世市村羽左衛門らの三変化舞踊「花誘劇場踊(はなさそうかぶきおどり)」の一つ。三升屋四郎作。杵屋和吉作曲。四世西川扇蔵ら振付。天保七年(一八三六)江戸市村座初演。二人の太神楽に新造がからむ。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「太神楽」の意味・わかりやすい解説

太(代)神楽 (だいかぐら)

民俗芸能。神楽の一種。近世初頭から伊勢参宮の隆盛に伴って起こった二人立ち(頭役と尻役)の獅子舞で,代参祈禱の清め祓いの獅子を舞わせ,神札を授けるなどして諸国を巡って歩く。代参の意味から古くは代神楽と書いたが,のちに皇太神宮,太一などの表記と同じように美称の〈太〉を用いるようになった。近年は大神楽とも書く。獅子神楽に分類されるが,単に獅子を舞わすだけでなく,早くから余興芸として舞い手が曲芸を演じてみせ,やがて曲芸を本芸とするものも出た。寄席芸で太神楽というと日本式の曲芸を指すようにさえなった。今日の太神楽は三重県桑名市太夫に本拠を置く〈伊勢太神楽〉と東京都台東区上野桜木町に本拠を置く〈江戸太神楽〉(丸一)が代表的である。江戸系はもと尾張を故地とする〈熱田派〉が,江戸時代前半期に江戸に本拠を移したものである。この2流派の芸質はかなり違う。伊勢太神楽は陰陽師(おんみようじ)系の家系と伝えるが,数名から10名程度を一組とし,現在は6組で講社を組織し,組ごとに一年を通して受持ち区域を巡業している。近畿,北陸を中心に,かつては広く西日本一円に及んでいた。普通は家々を門付(かどづけ)して歩くが,祭礼時とか特別の祈願がある場合には曲芸を併せて演じる。神社の境内など野外でのダイナミックな芸である。獅子の舞としては白衣に神職用の袴をはき,祈禱の神事舞として《鈴の舞》《四方の舞》などを,奉納神楽として《吉野舞》《神来舞(しぐるま)》などを舞う。曲芸は獅子頭を長持上の小祠に納めて《剣三番叟》《綾取の曲》のような投げ物や,《水の曲》《献灯の曲》のような立て物を演じる。例外として,獅子頭をかぶって二人重立ちの花魁(おいらん)道中を演じる《魁曲(らんぎよく)》がある。江戸太神楽は舞台芸能化し,巡業していない。獅子舞は《寿獅子》1曲で曲芸は9番ある。ほかに神楽舞,掛合,茶番狂言などを演じる。このほか,その土地の特色を備えた獅子舞が各地に伝承されている。
獅子舞
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「太神楽」の意味・わかりやすい解説

太神楽
だいかぐら

獅子(しし)神楽の一種。獅子の霊力によって悪魔祓(ばら)い、火伏せ、息災延命を祈祷(きとう)する二人立ち(一頭に2人入る)の獅子舞で、大神楽、代神楽とも書く。代神楽の名は伊勢(いせ)参りの代参の意に出るという。もと伊勢や尾張(おわり)から出たといわれ、獅子を回しながら、伊勢のお祓いと称して諸国を巡回した。現在も三重県桑名(くわな)市太夫(たゆう)町に伊勢太神楽の組が6組伝わる。12月23、24日、太夫町の増田神社の祭礼に各組が集合し、全曲を交代で奉納するほかは各組とも巡業に出る。その活動範囲は近畿、中部北陸、中国地方の一定の村々で、各戸の竈(かまど)祓いを行う。伊勢太神楽の流れをくむ獅子舞は全国的に分布して祭礼などに奉納される。一方、江戸の太神楽は熱田(あつた)派(尾張派)と伊勢派の二系統があり、早くから江戸に出て寄席(よせ)芸として定着、現在も江戸の太神楽として曲芸(テゴト)や滑稽掛合(こっけいかけあ)い(シコナ)を演じている。

[渡辺伸夫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太神楽」の意味・わかりやすい解説

太神楽
だいかぐら

獅子を舞わせて悪魔払い,火伏せなどを祈祷する神楽の一種。「大神楽」「代神楽」とも書く。2人立ちの獅子であるが,1人立ちで舞うことも多く,祈祷のほかに,種々の曲芸や狂言風の掛合芸を次第に演じるようになり人気を呼んだ。伊勢と尾張には神楽組があり,初春になると諸国に巡回に出た。その影響を受けて,各地でもこの神楽を演じるようになったが,その一部は大道芸となり,余技であった曲芸のほうに力を注ぎ,江戸の太神楽のように寄席芸となった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「太神楽」の意味・わかりやすい解説

太神楽【だいかぐら】

大神楽,代神楽とも書く。獅子(しし)舞を中心に品玉(しなだま),曲鞠(きょくまり),皿(さら)回しなどを演ずる曲芸。伊勢神宮の太神楽から発したともいわれ,もと荘厳な神楽舞の遺風があったが,江戸時代に大道芸として盛行,のち屋内芸となった。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本文化いろは事典 「太神楽」の解説

太神楽

江戸時代末期から寄席芸能として広く大衆の人気を集めた、日本の総合演芸の事を指します。内容として、主に獅子舞をはじめとした「舞」と、傘回しをはじめとした「曲」があります。「おめでとうございま〜す」で有名な海老一染之助・染太郎の曲芸がまさに太神楽です。

出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報

歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「太神楽」の解説

太神楽
(通称)
だいかぐら

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
松色操高砂
初演
文化14.3(江戸・河原崎座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の太神楽の言及

【獅子舞】より

…獅子のたてがみの図柄を配したものもある。 二人立ちの獅子舞は祭礼のお練りや田楽(でんがく)にも舞われるが,獅子神楽と呼ばれる太神楽(だいかぐら)や山伏神楽にもっとも定着した。太神楽は獅子舞による祈禱と余興としての曲芸(散楽(さんがく))からなるもので,三重県桑名市太夫町に本拠を置く伊勢太神楽と,もと尾張熱田に出て徳川家の江戸入府に伴い江戸太神楽となった丸一(まるいち)が代表的な存在である。…

【民俗芸能】より

…長年全国を踏査して多くの研究成果をあげた本田安次(1906‐ )は,これを整理して次のような種目分類を行った。 (1)神楽 (a)巫女(みこ)神楽,(b)出雲流神楽,(c)伊勢流神楽,(d)獅子神楽(山伏神楽番楽(ばんがく),太神楽(だいかぐら)),(2)田楽 (a)予祝の田遊(田植踊),(b)御田植神事(田舞・田楽躍),(3)風流(ふりゆう) (a)念仏踊(踊念仏),(b)盆踊,(c)太鼓踊,(d)羯鼓(かつこ)獅子舞,(e)小歌踊,(f)綾踊,(g)つくりもの風流,(h)仮装風流,(i)練り風流,(4)祝福芸 (a)来訪神,(b)千秋万歳(せんずまんざい),(c)語り物(幸若舞(こうわかまい)・題目立(だいもくたて)),(5)外来脈 (a)伎楽・獅子舞,(b)舞楽,(c)延年,(d)二十五菩薩来迎会,(e)鬼舞・仏舞,(f)散楽(さんがく)(猿楽),(g)能・狂言,(h)人形芝居,(i)歌舞伎(《図録日本の芸能》所収)。 以上,日本の民俗芸能を網羅・通観しての適切な分類だが,ここではこれを基本に踏まえながら,多少の整理を加えつつ歴史的な解説を行ってみる。…

※「太神楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android