「奥羽永慶軍記」(一六九八)には、天正(一五七三‐九二)頃、白川の座頭が「尼君物語」の浄瑠璃を語った事が記されているが、「奥浄瑠璃」という名称は挙例の「誹枕」が早い。地元では「御国浄瑠璃・御国節」と呼び、江戸では「仙台浄瑠璃」と呼んだ。伊達藩の保護下、専ら盲人の保守芸能として伝承され、最近まで数派が存した。
仙台浄瑠璃,御国(おくに)浄瑠璃,御国節ともいう。〈奥〉は奥州の意で,仙台を中心に宮城・岩手県地方に行われた語り物の一種。座頭の坊,ボサマなどと呼ばれる盲人の専業で,幕末から目あきも語ることがあった。最盛期は化政期(1804-30)ころと考えられる。中世末期より語られたらしく,《奥羽永慶軍記》に座頭が〈尼公(あまぎみ)物語〉を語った由が見え,また《誹枕》中の寛文(1661-73)ころの句に奥浄瑠璃の名が見える。芭蕉が塩釜の旅宿でこれを聞いたとする《おくのほそ道》の記事は有名だが,南部の人宇夫方(うぶかた)広隆の《遠野古事記》,菅江真澄の《霞む駒形》《はしわの若葉》などに18世紀中・後期のその様がうかがわれる。19世紀初頭ころまで,江戸から古浄瑠璃正本の刊本が奥州に卸され,奥浄瑠璃の正本とされた(《嬉遊笑覧》《用捨箱(ようしやばこ)》)。今日知られる曲目に〈竹生(ちくぶ)島の本地〉などの古浄瑠璃物,〈尼公物語〉〈烏帽子折(えぼしおり)〉〈牛若東下り〉などの判官物,〈田村三代記〉〈迫(はざま)合戦〉(御伽草子《田村の草子》《もろかど物語》と同材)などの特有物があり,異本を含めて七十数曲が伝えられている。伴奏には琵琶を用いたともいわれるが,古くは扇拍子を用い,宝暦(1751-64)ころから三味線にかけられた。曲節は古浄瑠璃の系統か,平曲,幸若舞曲(幸若舞)の系統か不明。三味線の伴奏法には平曲に類似するところがある。流派に城札(じようさつ)流,かほ一流,重一(しげいち)流が宝暦ころに興り,天保(1830-44)ころに城札流から喜右衛門流が興った。大正ころから急速に衰えたが,最近まで一関市の北峰一之進(1889-1973)が伝承した。
執筆者:山本 吉左右
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浄瑠璃の一種。奥羽地方の伊達(だて)、南部両藩に伝承されていた浄瑠璃。現地では「じょるりこ」とよんだが、「お国浄瑠璃」「仙台浄瑠璃」ともいう。源義経(よしつね)の東(あずま)下りを題材にした作品が多く、初期には扇拍子で語られた。塩竈(しおがま)でこれを聞いた芭蕉(ばしょう)は、「法師の琵琶(びわ)をならして奥上るりと云(いう)ものをかたる。平家にもあらず舞にもあらず、ひなびたる調子」と、『おくのほそ道』に書き留めている。伴奏楽器はいつのころにか三味線に変わったが、法師たちは各地で『牛若東下り』『田村三代記』『黒白餅(もち)合戦』などを演じた。昭和初期には伝承者も減少し、宮城県では桃生(ものう)郡矢本町(現東松島(ひがしまつしま)市)の石垣勇栄(1862―1931)、石巻(いしのまき)市の鈴木幸龍(こうりゅう)(1881―1947)、岩手県では一関(いちのせき)市の北峰一之進(1889―1973)、西磐井(にしいわい)郡花泉(はないずみ)町(現一関市)の佐藤良伯ら数人が名をとどめるのみで、現代では伝承がとだえた。なお1933年(昭和8)から記録され始めた鈴木幸龍の演奏が、小倉博(おぐらひろし)編『御国(おくに)浄瑠璃』(1937・斎藤報恩会)にまとめられている。
[倉田喜弘]
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…表芸の平曲より早物語のほうが上手な盲僧もおり,身近な題材や,動物,魚,野菜などを主人公とした早物語は庶民の間に人気があり,間語りの性格を離れて,独立の語り物として演じられる場合も多かった。東北地方の奥浄瑠璃や,北陸地方の盲僧の語りに残されたものには,大話もの,擬合戦もの,言語遊戯もの,数かぞえもの,祝いものなどがあり,いずれも滑稽諧謔(かいぎやく)を旨とするほか,〈そーれ物語かたり申そう〉などの文句で語り出すところに特色があり,早物語の系譜を示している。なお,狂言の《丼礑(どぶかつちり)》や《清水(きよみず)座頭》には,平曲の間に語られた早物語の具体的な姿がパロディとして見られる。…
※「奥浄瑠璃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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