埼玉県を貫流する荒川上流部の秩父山地の奥の意味で,奥秩父山地ともいう。標高1000m以上の険しい山稜と深いV字谷の自然美に恵まれ,地質は秩父古生層と中生層の堆積岩よりなり,県境付近から山梨県側にかけては花コウ岩などの火成岩の山もある。秩父多摩国立公園の中心部をなし,北東の限界は,秩父盆地の西部では山中地溝帯,東部では浦山渓谷から有間渓谷へつづく凹地帯である。最高点は山梨県側にあり,金峰(きんぷ)山(2599m)や国師ヶ岳(2592m)など2500m級の高峰が集まっている。ここから東方や北方へ向かって高度が低下する山稜が県境となり,埼玉県内最高峰の三宝山(2483m)や甲武信(こぶし)ヶ岳のほか,破不(はふ)山,唐松尾山,大洞山,三峰山のうち雲取山などの2000m級の山が奥秩父山地の主脈をなしてつづく。奥秩父の玄関口にあたる秩父鉄道の終点三峰口駅を拠点とした奥秩父縦走コースは登山者に人気がある。奥秩父を代表する名山は甲州,武州,信州の境となっている甲武信ヶ岳で,東方に荒川,北方に千曲川,南方に笛吹川の源流が発し,山頂からの展望は雄大である。荒川の源流真の沢は東流して川又で滝川を,二瀬で大洞川を,落合で中津川を合わせてしだいに大きくなり,深いV字谷を刻み,支流にある中津峡その他の美しい峡谷を形成した。荒川の豊富な水力資源を利用すべく進められた総合開発事業の基幹施設である多目的の二瀬ダムは1961年完成し,秩父湖も出現して新しい名所となった。国道140号線も舗装され,67年には県営三峰観光道路もつくられ,火難・盗難よけの神様として庶民に広く信仰された三峰神社への新しい観光ルートが開かれた。雁坂峠越えの甲州裏街道や十文字峠越えの信州往還の関門となった栃本関所跡(史),平賀源内が採金のため逗留(とうりゆう)した中津川の幸島家などの史跡にも富んでいる。
執筆者:新井 寿郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
関東地方西部から中部地方東部にまたがる秩父山地のうち、秩父盆地より西に連なる高峻(こうしゅん)な山域。主として埼玉、山梨、群馬、長野の4県にわたって広がる。標高1700メートルから2600メートルほどの急峻な山地が連なる。地質は秩父中・古生層が広く分布し、また大滝層群や山中地溝帯があり、さらに山梨県側には花崗(かこう)岩類が分布している。おもな山地は、埼玉、山梨および長野、山梨県境に沿って、雲取(くもとり)山(2017メートル)、甲武信(こぶし)ヶ岳(2475メートル)、金峰(きんぷ)山(2599メートル)、瑞牆(みずがき)山(2230メートル)と続く山々で、両神(りょうかみ)山(1723メートル)は埼玉・群馬県境近くにある。
これらの山々は、大部分が原生林で、その間を荒川、多摩川、笛吹(ふえふき)川、千曲(ちくま)川、神流(かんな)川などの河川の源流が流れる。とくに、荒川の真ノ沢や笛吹川の西沢渓谷は源流の美しさで知られるし、昇仙(しょうせん)峡や中津(なかつ)峡は新緑や紅葉の峡谷美で知られる。山中には、ダムによってつくられた秩父湖、奥多摩湖、神流湖などの人造湖があり、雁坂(かりさか)峠、十文字峠、信州峠などの美しい峠もある。金峰山麓(さんろく)の増富(ますとみ)温泉は、ラジウムの含有量の多いことで有名である。
秩父山地は、山容の示す風景には乏しいが、眺望がよいので、春から秋、とくに夏に登山する人が多い。登山口としては、埼玉県側の三峰(みつみね)神社、栃本(とちもと)、山梨県側の広瀬、黒平(くろだいら)、増富、長野県梓山(あずさやま)などがある。いずれも素朴な山村で、登山者でごった返すような混乱はない。山小屋も比較的多く、雲取、雁坂、甲武信などの山小屋は、夏季には番人が常住する。高山植物の季節は7月中旬からで、シャクナゲが美しく、紅葉は10月中旬からで、幾多の名所がある。
[中山正民]
『原全教編『奥秩父研究』(1959・朋文堂)』
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