立法の権限を,立法府から他の国家機関が委任されて行う立法。一般的には行政府が法律による委任を受けて行う立法を意味する。法律の執行は行政権の本来の権限であるから,法律を執行するために必要な細則の立法を行政府が行う(執行命令)のは,委任立法と概念を異にする。本来,国の組織および作用は,国民意思を第一次的に代表する議会の定める法にもとづくべきであり,これは,近代議会制の重要な柱でもあった。しかし,国家の職能の範囲が拡大し,かつ職能の性質が複雑さを増すにつれ,議会が,国家組織と作用のすべてを規律する立法を行うことは不可能となり,議会の立法である法律は原則的大綱的事項を定めるにとどめ,行政府およびその各部門の立法に具体的定めをまかせるようになった。かくて,現代国家はいずこでも委任立法が盛行を極めている。日本も例外ではない。権力分立制をふまえて,国会は唯一の立法機関とされている(憲法41条後段)が,これは委任立法を否定する趣旨ではない。憲法は,内閣の立法である政令における罰則について,法律による委任の必要性を明記しているのみである(73条6号但書)が,罰則以外についても法律委任にもとづく行政立法は認められる。ただし,法律事項をすべて委任するような白紙委任的立法は許されない。罰則の委任についても,処罰の構成要件をすべて委任立法にまかせることは許されない。委任立法が法律の枠を超えたかどうかを,国会が審査するような制度は,国会の立法府たる本質上,望ましい制度と思われるが,日本にはない。
執筆者:清水 睦
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法律の委任に基づいて法規範を発すること。その具体的な表れが委任命令や委任条例である。典型的な例は内閣の発する政令であるが、下級裁判所が最高裁判所から委任されて発する規則(憲法77条3項)、会計検査院(会計検査院法38条)や人事院(国家公務員法16条)、公安委員会(警察法12条・38条5項)などが発する規則、知事・市町村長が条例の委任に基づいて発する規則、政令の委任に基づき各省大臣が発する省令、地方公共団体が法律の委任に基づいて制定する条例(例、建築基準法56条の2に定める日影(にちえい)規制条例、公衆浴場法2条3項に基づく浴場の配置の基準を定める条例などの委任条例)なども委任立法である。
委任立法が認められる根拠は、形式的には「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」と定める憲法第73条6項但書などに、実質的には立法細目の専門技術性、事情の変化に機敏に対応し、また地方的事情を考慮する必要性などに求められる。委任立法は、国会を唯一の立法機関とする議会制民主主義(憲法41条)からみて例外であるから、地方条例への委任を除き、個別的、具体的であることを要する。第二次世界大戦終了まではナチスの授権法や日本の国家総動員法など、議会の立法権を放棄するに等しい白紙委任が存在したが、これは今日では許されない。法律の委任なくして政令で罰則を定めることはできない。なお、犯罪構成要件を政令に委任したり、委任された者がさらに権限を委任する再委任もいちおうは許されると解されている。
[阿部泰隆]
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