行政機関が定める一般的性質を持った法的規律をいう。憲法または法律を実施するための行政立法を執行命令といい,法律の委任に基づいて制定される場合を委任命令という。行政立法をどのような範囲で許容するかは,三権分立の具体的形態に関する憲法上の判断にかかっている。一般に近代的市民階級の力が脆弱(ぜいじやく)で,封建的諸勢力がなお強力である場合には,国民主権主義の思想は国家機構のあり方に十分反映されず,市民階級の代表者を含む議会(立法府)の地位は相対的に低く,封建的諸傾向をもった勢力が実質的に行政権を掌握し,広範な行政立法権を行使することがある。明治憲法による緊急命令や独立命令(8条,9条,70条)の承認はその典型的な例である。また法律による規律を必要とする事項(法律に留保された事項。〈法律の留保〉の項目を参照)とそれ以外の事項を区別する学説は,立法権の範囲を限定し,広範な行政立法を理論的に基礎づける機能を有していた。国民の権利利益を侵害する規律のみを要法律事項とする〈侵害留保説〉はその好例である。現代の国家でも議会の権限を限定し,行政機関をとくに強化する憲法上の判断がとられる場合には,行政立法は広範に及ぶこととなる(フランス第五共和政憲法)。日本の現行憲法下においては,国会が国の唯一の立法機関となった(日本国憲法41条)ことから,行政立法はもっぱら執行命令または委任命令としてのみ許容される(73条6項)。
行政立法は,その内容によって,通常,一般国民の権利義務に関する規律(法規)を含む法規命令とこのような内容を有していない行政規則(または行政規程。行政命令ともいうが,この語は法規命令をさして使われることもある)に分類される。法規命令は,その性質上,法律を執行しまたは法律の委任がある場合にのみ制定することができる。とくに国民に義務を課し,その権利を制限し,これに罰則を設けるには必ず法律の委任に基づかなければならない(日本国憲法73条6項但書,内閣法11条,国家行政組織法12条4項)。これに対して行政規則は,法規としての性質を有していないので,特別な法律の授権なくして制定することができると解されている。たとえば,行政機関内部の職務分掌規程等がこれである。また,いわゆる部分的法秩序における一般的規律(訓令,通達,営造物管理規則等)も行政規則であるとされてきた。しかし,形式は行政規則であっても法規の内容を補充する法規命令としての性格を有するものもあり,このような場合は,法律の委任を必要とする。行政規則も法律に反することはできない。
現代国家においては,行政活動の増大や複雑化等により,行政立法の果たす役割は増大している。
執筆者:中西 又三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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