婆沙羅・婆佐羅などとも表記する。南北朝内乱期にみられる顕著な風潮で、華美な服装で飾りたてた伊達(だて)な風体や、はでで勝手気ままな遠慮のない、常識はずれのふるまい、またはそのようすを表す。また珍奇な品物などをも意味する。サンスクリット語のvajraバジラ(金剛・伐折羅(ばざら))から転訛(てんか)したことばといわれる。「建武(けんむ)式目」のなかでは「近日婆佐羅と号して、専ら過差(かさ)を好み、綾羅錦繍(りょうらきんしゅう)・精好(せいごう)銀剣・風流(ふりゅう)服飾、目を驚かさざるなし、頗(すこぶ)る物狂(ぶっきょう)と謂(い)ふべきか」といわれ、過差=奢侈(しゃし)が、「物狂」といわれるほど異常な形で現れることを「婆佐羅」と表現している。また『太平記』では「佐々木佐渡判官入道導(道)誉ガ一族若党共、例ノバサラニ風流ヲ尽シテ」などとあり、伝統的価値観を食い破って現れてくる社会の風潮が語られている。なお、二条河原落書(にじょうがわららくしょ)にみえる「ハサラ扇ノ五骨(いつつぼね)」とは、骨数の少ない扇面に粗放、はでな風流絵を施したものをいう。ばさらの風体や行動をもって名をとどろかせた佐々木高氏(導誉)・土岐頼遠(ときよりとお)は、南北朝期の時代精神を体現したものとして「ばさら大名」とよばれる。
[新井孝重]
鎌倉幕府の倒壊前後からみられる風潮で,珍奇で派手な品や行動をいう。「建武式目」第1条は,「倹約を行はるべき事」として近頃婆娑羅と号して不相応な贅沢が好まれ,綾羅錦繍や念入りに細工を施した銀剣,飾りたてた服飾など,目を驚かせないものはなく,さながら「物狂」というべきかとこれをきびしく禁じている。時代の転換点にあたり,華美な現世謳歌が噴出し,豪華奢侈が好まれた。幕府の禁制にもかかわらず時代の流行となり,佐々木高氏(導誉(どうよ))のような婆娑羅大名まで出現し,また婆娑羅扇・婆娑羅の茶・婆娑羅絵などがもてはやされた。サンスクリットのバジラ(金剛)から転訛した語とされるが,その過程は未詳。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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