もと「姮娥(こうが)」といわれており、「淮南子‐覧冥訓」やその高誘注によると、羿(げい)の妻であったが、羿が西王母から得た不死の薬を盗んで飲み、月に逃げたという。漢の文帝の諱「桓」を避けて「姮」を「嫦(こう)」と書いたが、後にこの字が「ジョウ」と読まれるようになった。
中国神話にみえる月神。常娥,常羲(じようぎ)などとも書く。《山海経(せんがいきよう)》大荒西経に,帝俊の妻常羲が月十二を生み,大荒の日月山で浴することがみえる。帝俊は文献にいう舜で,もと太陽神。《淮南子(えなんじ)》覧冥訓に,羿(げい)が不死の薬を西王母に求めたところ,嫦娥がこれを窃(ぬす)んで月に奔(はし)ったことがみえ,そこでは嫦娥は羿の妻と解されている。月に奔った嫦娥は月中の蟾蜍(せんじよ)(がま)となり,月の精となった。そのことは《楚辞》天問にも歌われていて兎となったとされ,晋の傅玄(ふげん)の〈擬天問〉には,兎が薬を擣(つ)く話となっている。これらの説話は,西王母が神仙化され,その神仙譚とともに発展し,月中に桂樹(桂(かつら))があり,仙人が住む話となった。さらに天帝の罰を受けたものが一時下界に降(くだ)り,その期が終わると再び昇天するという〈かぐや姫〉型の説話となる。その形式の説話の分布はきわめて広く,南アジア一帯に及んでおり,説話の構成もかなり流動的なものである。
執筆者:白川 静
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国古代の伝説に登場する女性。姮娥(こうが)ともいい、弓の名人羿(げい)の妻。嫦娥は、夫の羿が崑崙(こんろん)山に住む女仙の西王母(せいおうぼ)からもらい受けた不死の薬を盗み出し、それを服用したのち、月世界へ昇ってガマガエルに化したと伝えられる。嫦娥を仲立ちとして不死の薬と月が結び付いたのは、人々が永遠に変わることなく満ち欠けを繰り返す月に不死性を感じ取ったためと思われる。またガマガエルに変身したというのも、月影をカエルに見立てた古代の中国人の観念によるものであろう。しかしのちになると、醜いカエルに化したという伝承は消失し、嫦娥はただ1人で月中に孤独をかこつ憂愁の美女と考えられるようになった。そうした嫦娥の姿を唐代の詩人たちは、しばしば詩に月を読み込むときの素材としている。
[桐本東太]
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