安倍氏(読み)あべうじ

山川 日本史小辞典 改訂新版 「安倍氏」の解説

安倍氏
あべうじ

1平安時代東北地方の豪族。中央氏族の阿倍氏と同じく大彦(おおひこ)命を祖と称する系譜もあるが不詳。11世紀前半の忠頼・忠良父子以来,奥六郡(陸奥国北部,衣川以北の胆沢(いさわ)・江刺(えさし)・和賀(わが)・稗貫(ひえぬき)・紫波(しわ)・岩手の6郡)で俘囚(ふしゅう)の長として勢力を振う。忠良の子頼時に至り,支配圏を拡大しようとして中央政府と衝突。この前九年の役の過程で頼時および子の貞任(さだとう)は戦死,宗任は捕虜となり,安倍氏は滅亡した。津軽安藤氏・出羽秋田氏・九州松浦党(まつらとう)などは安倍氏の子孫と称する。

2平安中期以降陰陽道(おんみょうどう)・天文道に多くの人材を輩出した氏。すべて安倍晴明(せいめい)の子孫。この安倍氏も吉志舞(きしまい)を奉仕することから大化前代以来の名族阿倍氏とつながっていると思われるが,詳細は不明。系図類では右大臣阿倍御主人(みうし)の末裔とするが疑問。平安後期以降は天文道での支配的地位を独占し,陰陽道でも賀茂氏とその地位を二分。近世以降は嫡流土御門(つちみかど)家が陰陽道・暦道をも独占的に支配した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安倍氏」の意味・わかりやすい解説

安倍氏
あべうじ

平安後期、東北地方北部に拠(よ)った俘囚(ふしゅう)豪族。古代蝦夷(えぞ)抵抗の伝統に連なりながら、前九年の役(1051~1062)を起こし、古代集権国家から中世地方国家分立への方向を切り開くうえで、画期的な役割を果たした。出自については、これを大彦命(おおひこのみこと)の子孫(阿倍氏、阿倍比羅夫(あべのひらふ)もその支族)とするよりも、神武(じんむ)東征に抗した長髄彦(ながすねひこ)の兄で、津軽に流された安日(あび)の子孫とする伝説を生かして、岩手県北安比(あっぴ)川などの地名に結び付けて考える説が、最近有力である。奥六郡(胆沢(いさわ)、江刺(えさし)、和賀(わが)、稗貫(ひえぬき)、斯波(しわ)、岩手)俘囚長の家柄を世襲して、鎮守府公権を事実上代行するようになっていた安倍頼時(よりとき)は、俘囚領国の独立を図って前九年の役を起こしたが、源頼義(みなもとのよりよし)に滅ぼされた。

高橋富雄


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安倍氏」の意味・わかりやすい解説

安倍氏
あべうじ

陸奥出羽の安倍氏。本来俘囚の子孫。平安時代後期,北上川流域に勢力をはり,前九年の役後三年の役で朝廷にそむいた。また,左大臣安倍朝臣倉橋麻呂から出たと伝える安倍氏があり,この一流は安倍晴明をはじめ,陰陽頭,陰陽博士,天文博士などに任じられた天文陰陽両道の大家を多く輩出し,堂上家の一に列せられた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「安倍氏」の解説

安倍氏
あべうじ

平安時代の陸奥・出羽の豪族
俘囚 (ふしゆう) の長として,北上川流域に勢力をふるう。頼時・貞任 (さだとう) ・宗任 (むねとう) の時代に栄えたが,前九年の役(1051〜62)で源頼義・義家らに敗れ滅亡した。

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世界大百科事典(旧版)内の安倍氏の言及

【前九年の役】より

…1056年(天喜4)から62年(康平5)まで,陸奥守兼鎮守府将軍源頼義と陸奥国の安倍氏の一族との間で戦われた戦乱。古くは源頼義が陸奥守になった1051年(永承6)から62年までの12年間を乱の期間と見て,奥州十二年合戦といわれていた。…

【天文道】より

…これを天文密奏という。平安時代中期以降,天文道は陰陽道とともに安倍氏(土御門家)の世襲となり,明治維新に至った。明治政府は旧式の天文道に代わり近代的な西洋天文学を採用した。…

【名田荘】より

…その間徳禅寺の年貢収取は困難となり,戦国後期にはほとんど消滅した。なお,南北朝期ごろから上村の領家職を伝領したと思われる京都の陰陽家安倍氏が,この地に陰陽道関係の信仰を伝え,とくに戦国期に京都の戦火を避けて有宣・有春父子が荘内に居住したこともあって,その影響は長く後代に残ることになった。【須磨 千穎】。…

※「安倍氏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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