日本古代において,捕虜になるか降伏して国家支配下に置かれた蝦夷(えぞ)/(えみし)をいう。夷俘とも称された。古代国家は国家支配の外に立つ蝦夷という抵抗民たちとその領土とを,国家支配の中に組織して,これを〈内民〉〈内国〉に同ずることを蝦夷経営の最終目標にしていた。この〈内なる蝦夷〉としての俘囚の問題は,蝦夷経営問題の最終形態を示していたことになる。最も古く,捕虜になった蝦夷は朝廷に送られ,佐伯部という大和朝廷武力集団に組織されたという伝えがある。律令時代には朝廷の権威を誇示するために朝儀に参列せしめる記事があり,また貴族に分け与えて隷属させたこともあった。平安初頭の延暦・弘仁の大征討により蝦夷の主たる抵抗が壊滅したのを機に,律令政府は蝦夷勢力を分断する政策をとり,一部を胆沢城,秋田城,雄勝城下の直轄地に集住させて軍政下に自治的に生活させるとともに,その最も強硬な集団は分散して内国に移住せしめ,国司の統制下に置いた。彼らは集団をなして村落を形成した。《和名抄》に〈俘囚郷〉と見えるものがそのなごりである。その移配された国は《延喜式》によれば35ヵ国にも及んだ。彼らには生活厚生のために〈俘囚料〉が定められ,出挙(すいこ)稲による利稲が与えられた。812年(弘仁3)には彼らの中から俘囚(夷俘)の長を,翌年にはその上に専当国司を置いて管理・統制を強化するとともに,他方では口分田を給し計帳を造って,〈調庸の民〉(課役の民)として扱う努力も続けられた。しかしその成果がどうなったか明らかでない。反対に9世紀になると,これら俘囚たちの反乱が各地で伝えられるようになる。出雲,上総,下総,下野などの例が報告され,大宰府管内では,移配の俘囚を正規兵に編成する計画もあった。878年(元慶2)には出羽の秋田城下の俘囚の乱(元慶の乱)がおこり,また前九年の役,後三年の役は11世紀俘囚の長の乱であった。
執筆者:高橋 富雄
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古代東北地方の蝦夷(えみし)で、律令国家に征服されて日本各地に集団的に配置されたものをいう。俘も囚も虜(とりこ)の意。俘囚料(夷俘料)が各国に設定され、その地に配置された俘囚の生活給付にあてられた。俘囚料はほぼ全国にあり(『延喜式』主税)、全国的規模での俘囚の配置があったことが知られる。俘囚の初見は725年(神亀2)で、蝦夷問題は早くからあったものの、居住地から切り離して各地に配置することはこの頃からのことである。農耕民化が図られたがしばしば擾乱(じょうらん)が起こり、その統治、行政には困難が伴い、とくに878年(元慶2)に出羽国(でわのくに)秋田郡で起こった元慶の乱(がんぎょうのらん)は大規模であった。
なお被差別部落が東北地方に少なく関東以西に多くみられることから、俘囚をその起源とする説がある。しかし当初は居住区も限定され、また一部の俘囚が差別的身分に置かれていたことは事実であるが、古代的身分制度の解体とともにそれらは消滅する。俘囚という表現も平安後期を最後としてみえなくなり、中世以降への俘囚の差別的状況の継続は確認できない。したがって後世の被差別部落の起源が俘囚であるという説は学問的には成立しない。
[井上満郎]
『平川南著「俘囚と夷俘」(青木和夫先生還暦記念会編『日本古代の政治と文化』所収・1987・吉川弘文館)』▽『井上満郎著「近江と俘囚」(木村至宏編『近江の歴史と文化』所収・1995・思文閣出版)』▽『大井晴男著「『俘囚』について」(『日本歴史690号』所収)』
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8世紀以降に律令国家に服属した蝦夷(えみし)に対する呼称。服属した蝦夷は公民と区別して蝦夷・俘囚の二つの身分に編成され,種々の恩典を与えられるとともに軍役などを課された。俘囚は吉弥侯部(きみこべ)(君子部)姓のものが多く,個人ないし親族単位で服属したものと推定される。一部は諸国に強制移住させられ,なかには公民となる者もいた。蝦夷の蝦夷爵(しゃく)に対し俘囚には外位(げい)が与えられたが,平安時代には蝦夷・俘囚の別は曖昧になった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…そして以後は,勇者という意味の美称エミシは〈毛人〉という形で主として人名などに,強暴なる抵抗民たちという意味のエミシには〈蝦夷〉が用いられるようになった。戦争によって捕虜になったり,もしくは降伏した蝦夷は〈俘囚(ふしゆう)〉〈夷俘〉というふうに呼ばれる。彼らは,大量に内国に送られ,それぞれの国で〈俘囚郷〉をつくって生活した。…
※「俘囚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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