官房(読み)カンボウ(英語表記)Kammer[ドイツ]

デジタル大辞泉 「官房」の意味・読み・例文・類語

かん‐ぼう〔クワンバウ〕【官房】

《〈ドイツKammer行政機関内局の一。内閣・府・省などに置かれ、機密・人事・文書・統計などの事務を取り扱う。絶対王政時代のドイツで、君主の側近に仕える重臣が執務した小室に由来。

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精選版 日本国語大辞典 「官房」の意味・読み・例文・類語

かん‐ぼうクヮンバウ【官房】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Kammer の訳語 )
  2. 絶対君主制のもと、君主の側近に仕える少数の重臣が、国家の枢要な事務を執務した小室。
  3. 国家行政機関の内局の一つ。機密に関する事務や、人事・文書・会計広報などの庶務、および各部局間の連絡、調整事務を行なう。内閣・府・省・会計検査院などに置かれる。
    1. [初出の実例]「省内に陸軍卿の官房を置き」(出典:軍制綱領(1875)〈陸軍省編〉一)

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改訂新版 世界大百科事典 「官房」の意味・わかりやすい解説

官房 (かんぼう)
Kammer[ドイツ]

国家行政組織法の規定により定められている府省・庁・行政委員会の内部部局。国家行政組織法が行政機関の最高構成単位として局とならべて官房を設けたことの理由は,官房という制度の歴史的由来と結びついている。すなわち,官房ということばが,絶対君主制下のドイツにおいて君主の側近たちが執務した小室Kammerを意味したことから知れるように,元来,官房は宮廷管理もしくはそれと分離したラント(領邦)行政の枢要な機密的事務を処理する場であった。とりわけプロイセン絶対主義官僚制の一つの支柱をなした直轄地行政にあって,直轄地官房Amtskammerが果たした役割は大きく,その権限の拡大は同時にプロイセンの中央集権的全体国家の確立を意味するものであった(なお〈官房学〉の項目を参照)。日本の明治時代に形成された官僚制組織は,主としてこのプロイセン官僚制をモデルとしたものであり,1885年の内閣制の発足により,従来の太政官制下における書記局が各省大臣官房として再編されることになった。数年後には,別個に設けられた総務・会計部門が併合され,ここに各省の官房制による行政管理機構が確立することになった。地方行政機構においても,総務部門と並存する形で,ことに知事の職権を補強するために官房が設置され,戦後の総務部体制に引き継がれることになった。中央,地方のいずれも,議会制の発達に対応して,政務と行政事務との結節点として機能したところに,日本的特色がみられる。

 現在,官房は府と省にはつねに置かれ,庁と委員会にあっては必要に応じて法律によって設けられる。官房の長は官房長であるのが普通であるが,庁・委員会の官房のなかには官房長の職位を置いていないところもある。たとえば,宮内庁や行政管理庁には長官官房はあるけれども,官房長は置かれていない。同じく行政機関の内部部局であっても,局または部の場合には,こうしたことはない。官房と通常の局または部との担当事務内容の違いは,官房が機密に関する事務その他の秘書的事務を必ず含んでいるところにある。そのほか官房が担当する業務は,府省・庁・委員会によって多少異なるけれども,おおむね,人事,文書,予算会計,広報,統計,調査などに関する事務である。官房組織の基幹を構成するのが,人事・文書・予算会計を扱ういわゆる官房三課(秘書課・総務課・会計課または人事課・文書課・会計課)である。

 官房を置いていない行政機関でも,これらの業務を担当する部門をもたないものはなく,総務局・部・課あるいは庶務課などの名称を付せられた官房組織を有することはいうまでもない。現在の法制上,地方公共団体の行政組織について官房の名称が用いられることはないが,総務部門を中心とする類似業務の担当部局課が,中央行政機関における官房組織にあたる。また,国家行政組織法の適用を受けるのは,〈内閣の統轄の下における行政機関〉であるが,内閣に直属する内閣補助機関および内閣から独立して憲法に設置根拠を直接置く会計検査院にも官房組織が存在することはもちろんである。それらの中でもっともよく知られるのが内閣官房である。この内閣官房は〈閣議事項の整理その他内閣の庶務〉を担当する機関として戦前より存続し,現在では,〈閣議事項の整理その他内閣の庶務,閣議に係る重要事項に関する総合調整その他行政各部の施策に関するその統一保持上必要な総合調整及び内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務〉(内閣法12条2項)を担当する機関として,とくにその総合調整機能が強調されるようになっている。この総合調整の事務を担当するのが内閣官房の内閣内政審議室に所属する内閣審議官であり,それらを含めて内閣官房の事務全体を統轄するのが内閣官房長官(官房長官と略称)である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「官房」の意味・わかりやすい解説

官房
かんぼう

行政組織上、局・部・課などとともに行政機関の内部部局の一種。沿革的には、絶対君主制下のドイツで君主の側近の官僚が国家の行政、財政、外交などの枢要な事務を扱っていた小室Kammerに由来する。

 官房は、府、省、会計検査院にあっては必置の内部部局であり、委員会、庁などでは随意に設置される(国家行政組織法7条1項・3項・7項、会計検査院法12条)。官房の機能は、各部局間の事務を横断的に統合し、連絡調整を図ることにあるが、具体的には機密に関する事務、人事・文書・会計等の庶務的事務、部局間の連絡調整に関する事務をつかさどる。

 なお、内閣には、その事務を助けるため、内閣官房が置かれ、閣議事項の整理、内閣の庶務、閣議を必要とする重要事項、ならびに行政各部の施策に関する総合調整、および内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務をつかさどる。これらの事務を統轄する内閣官房長官には国務大臣があてられる(内閣法12条・13条)。

[小松 進]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「官房」の意味・わかりやすい解説

官房
かんぼう
secretariat section

(1) 各省の局と並ぶ第1次分割単位。この名称は絶対君主を補佐した少数の臣下が執務した小部屋の名称に由来する。その主要な職務は人事,財務,文書といったライン機関のための補助業務であるが,さらに企画,調整,調査などのスタッフ業務を兼担していることも多い。補助業務の担当者もスタッフとして機能する。通常官房各課の長には課長級のなかでも最も重視される人物が就任し,その指揮のもとに省の一体的な活動の実現に努めている。 (2) 内閣,内閣府,省,庁,会計検査院などの行政機関におかれる内部部局の一つ (→内閣官房長官 ) 。国家行政組織法によれば,府および省には官房を必ずおくこととされている (7条1項) 。官房の所掌事務の範囲は法律で定められるが,おもなものは機密,人事,官印の管守,公文書の接受および保存,広報,予算=決算=会計,所管行政の調査および企画,行政財産および物品の管理などに関する事務および各部局の事務の統制調整に関する事務などである。

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世界大百科事典(旧版)内の官房の言及

【行政】より

…日本では,総理府の外局として,経済企画庁,行政管理庁(のちに総務庁),科学技術庁,環境庁,国土庁等が次々に新設された。こうした政府レベルのスタッフ組織に対応するのが,各省庁レベルでは官房であり,各局レベルでは総務課である。この種の官房系統組織(ないしは総務系統組織)というべき部門が担当している主要な管理機能が企画,総合調整,予算,文書,人事,組織である。…

※「官房」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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