明治維新当初の1869年(明治2)、神道(しんとう)を国教化するために設けられた布教機関とその職名で、神祇(じんぎ)官の管下にあった。官制は宣教長官(神祇伯兼任)、次官以下各級の判官(はんがん)、主典(しゅてん)、宣教使、講義生など19級に分かれ、神道家、国学者、儒者などが任用された。翌年大教宣布の詔(みことのり)が出て、神祇官で宣教使の開業式が行われ、宣教使による大教の宣布が本格化した。府藩県の推挙で全国的な宣教使、宣教掛の採用が始まり、「宣教使心得書」「大教の要旨」が出され、全国的な布教活動が展開された。宣教使の設置は、神道の布教によってキリスト教の進出を防止するねらいがあり、長崎地方にはとくに中央から直接宣教掛を送って教化にあたらせた。宣教使の活動は全体として迫力に欠け、政府が期待したほどの効果はあがらなかった。71年神祇官は神祇省に格下げされ、翌年神祇省を廃止して教部省が設置されて、宣教使の布教活動は教部省による国民教化政策に引き継がれた。
[村上重良]
明治初年に神道による国民教化をめざした政府機関,およびその職名。1869年(明治2)7月,太政官のなかに設置され,長官・次官・判官・宣教使らの職員をおいた。同年10月に神祇官に移管。神道にもとづく国民教化をめざし,70年1月,大教宣布の詔(みことのり)が発布され,全国各地で宣教使による国民教化の布教活動が展開された。71年神祇省の管轄となったが,政府の開化政策と対立し,72年3月,神祇省とともに廃止となり,教部省のもとで教導職に引き継がれた。
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…【阪本 是丸】(2)1868年(明治1),祭政一致をスローガンとした明治維新政府は神祇官の再興を企て,太政官の下に神祇官を置き,翌年にはこれを太政官より独立させた。神祇官の管轄事項には新たに宣教にあたる宣教使のことがつけ加えられ,長官,次官,正・権判官,主典,史生を置き,判官以上を神祇官職員の兼務とし,各藩に宣教係が置かれ,神道国教化政策が展開された(初代長官は中山忠能神祇伯,次官は福羽美静神祇少副)。しかし明治政府の富国強兵(〈近代化〉)政策の展開の中で,71年には神祇省に格下げされ,さらに翌年にはこれも廃止されて祭典関係の事項は式部寮に,宣教関係の事項は新設の教部省に移され,宣教使はしだいに教導職に吸収された。…
…明治政府はその正当性を確保するために天皇を絶対的存在と位置づけ,祭政一致のスローガンの下に神祇官を再興する等,神道国教化政策を展開した。しかし,この理念は当時の一般国民にはなじみの薄いものであったので,政府は1869年(明治2)宣教使を設け,翌年に大教宣布の詔を発して国民教化(布教)にのりだした。とくに長崎には特別の出張所を設けてキリスト教対策にあてるとともに,各藩には宣教係を置いて一般の教化に努めた。…
※「宣教使」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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